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14.サロメとの出会い

 目の前に座った美男子に名前を聞かれて思わず本名を言いたい気分になったのをグッと抑える。

「ワタ、ワタ、ワタシ…うん、ゴホン」

 緊張してるのか、思わず上ずった声が出てしまう。

 ちびちびと飲んでいたグレイライチをゴクゴクと喉の奥へ流し込んで緊張をほぐす。

「私はイノマン、あなたはサロメさんと言いましたね、ハナコのことを良くご存知なのですか」

 早々に鎌を掛けていく。

(先手必勝だぁ)

 イノマンの振りをしてる銭太郎は心の中でそう思った。

「まだ会ったことはないのだけど。ハナコという名前が最近よく私の耳に入ってくるんだよな、だから一度会いたくて来てみたのだけど、今の話は本当なのか」

 サロメが強い眼差しで見つめてくる。

 嘘はつかせないと言った感じだ。

(超美男子にそんな目で見られるとつい『ここだけの話なんだけど』って口止めしてから、本当の事を言ってしまいたくなるよ)

「残念だけど本当なんだ。ここだけの話として他には漏らさないって約束するなら、もう少し詳しく言うけど…」

「わかった、そこまで喋っておいて止めるってのはナシにしようぜ」

 段々と話す声を低くしていく。

 その分2人の距離が狭まりお互いの顔が至近距離になってる。

 銭太郎とサロメは一番奥の隅に置いてあるテーブルでこそこそと話をしていた。

 それが周囲の目にどう映ったのか、ゴロツキ共の殆んどが聞き耳を立てて勝手な想像を掻き立てながらニヤついてる。

「美男子があのおっさんに呼び付けられて、たぶらかされてるんじゃないか」

 中央付近のテーブルから大きな声が上がった。

「そうだな、ここはひとつオレが注意しといてやるか」

 イノマンの振りした銭太郎が酒場へ入ってきた時、最初にガンを飛ばしたクマ男が大股で歩き出す。

 クマ男の名前はドゥベーと言う、おおくま座アルファ星系の出身で白兵戦士を自称してる。

「おいおっさん、その子が嫌がってるんじゃないのか」

 少し離れた所から声を掛けた。

 戦う前に口上を述べる時は十分な間合いを取る。

 相手から奇襲攻撃されないようにするための常識だ。

 ドゥベーは素人ではないので、イノマンの外見がヒョロヒョロの優男に見えたとしても懐に何か隠し持っているのではないかという危機感を持って対応しなければいけないということを忘れてない。

(丸腰でこんな所へ来るバカはいない、スタンガンかソードの類いは持っているだろうな)

 ドゥベーはそう考えていた。

 ここ東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地では一般人居住区画になっている第4層とそれ以下の階層では武器を持つことが禁止されている。

 まあ、どこまでか武器の類いに入るのか線引きが曖昧なところはあるけど銃器類はさすがにダメだろう。

(飛び道具がなければ間合いはこんなもんだろうよ)

「なあ、美男子の兄ちゃんそんな弱そうなおっさんと一緒に居ることはねぇ、こっちで一緒に飲もうじゃあねぇか、オレたちの冒険談ってもんをたっぶり聞かせてやるぜ」

「ふん、嫌なこった黙れ、こっちはこれから大切な頼みごとをしようとしてるのだから邪魔をするな」

「ほう、キレイな兄ちゃんはえらい強気じゃねえか、なあ皆、この兄ちゃんの顔が苦痛にゆがんでいくってのを見てみたいと思わねえか」

 その大声が響くと同時に店内が沸き上がった。

「いいぞドゥベー、やれやれ!」

 歓声、口笛、酒ビンが飛び交い出す。

「ギャー!」

 悲鳴も参加する。

 しかし、その悲鳴はドゥベーが発したものだった。

 ドゥベーを見ると体にグルグルとヘビの様にムチが巻き付いている。

「な、何しやがるんでいぃ!驚くじゃないか」

 彼はヘビが苦手だった、

「苦痛にゆがんでいく顔を見たいんだろう…でもまだ余裕みたいだね」

「ギャーァァー」

 ドゥベーの体が痙攣して服から白煙が上がる。

「どうだい、10万ボルトの電気アンマに掛かった気分は…最高だろう」

 サロメは優越感に満ちた笑みを漏らす。

 高電圧だけど電流値が低いので死ぬことはない。

 ただひたすらに痛い。

 ムチが巻き付いた所だけ火傷の傷がダンダラ模様のケロイド状になってその痛みは数日の間続く。

 そしてその傷は記憶にも深く刻まれる事になるだろう。

 ドゥベーの悲鳴が収まり、恐怖の空気に満たされた店内が氷の世界みたいに静かになる。

挿絵(By みてみん)

 そんな中、ヒュンと音がしてドゥベーの胴に巻き付いてたムチが解き放たれる。

 サロメは左手に戻ってきたムチを輪っかに束ねて持ち、ゆっくり立ち上がり振り向く。

 そう、今までサロメは座ったまま後ろ向きにドゥベーの相手をしていたのだった。

「いいねえ苦痛にゆがんだ顔かあ、ああ、自分の顔は見れないね、誰か鏡を持ってないかい」

 再び店内がざわめき出すけど、それはさざ波程度のひそひそ声に収まる。

「もう許してあげませんか」

 銭太郎も立ち上がりサロメの側に行き肩に手を掛け自分の方を向かせて目を合わせる。

「そのムチはハナコから買った物ですよね、ここでは目立ち過ぎましたから場所を変えて話をしませんか」

 銭太郎がやっとの思いで平常心を取り戻し、言葉を放つ。

 今まで無言だったのは、ムチを取り出すために着込んでいた黒いツナギの前チャックを下ろしたサロメの胸元から恥ずかしそうに顔を覗かせている小振りの白い果実に目が奪われ釘付けになっていたから。

「そうだなお前は理解が早いようだ、賢い奴は嫌いじゃない」

 そう言って右手首をクィッと捻ると左手に持っていたムチが生き物の様にくねってサロメの腹に巻き付いてゆく。

 そのムチはハナコがお金を稼ぐために作って売った持ち主の思考に従い自由に操れるムチだった。

「使いこなしてますね」

 首元まで上がって行くチャックの先っぽを目で追いながら安堵して言う。

「便利なもんだ、こうして腹に巻いておけばいざって時の防御にもなるしな」

 そう言いながらドゥベーに一瞥を与えるけど床にへたり込んだまま動こうとしない。

「その傷に良く効く薬をやろう、今日はお前の奢りでいいな」

 サロメはカウンターに行きバーテンダーの前にポケットから取り出したビンを置く。

「私たち2人の飲み代はドゥベーの奢りになったで良いんだよな。皆もこの傷薬を塗ってやるといい、感謝して全員分タダにしてくれるかもしれないぞ」

「やったあー、オレにさせろー」

 店内に活気が戻ってきた頃、銭太郎はサロメの手を引っ張って路地に出た。

「私をどこへ連れて行こうと言うのかな、出来たらハナコの話を静かに聞かせてくれる場所が良いのだけど」

 サロメが一言一言をしっかりと言う。

 自分の意思で自由に操ることが出きるムチを手に入れたサロメは更に協力な武器が欲しくてハナコを探し求め来てるのだった。

 ハナコが死んだとしても繋がりが断たれたとはまだ思っていない。

「サロメは女性だったんだね、すまなかったよ男性だと思ってた」

「はあ~、そんなのいちいち気にする方がおかしくないのか、まあ、自然な姿で子孫を誕生させたいと考えてる変人、いやなんでもない失言した。忘れてくれ」

 サロメはこれから頼み事をしようとする相手がその変人かもしれないとの考えが脳裏をよぎったから口をつぐむ。

「君とは長い付き合いになりそうな予感がする。だから言うのだけど私はクローンなんだよ、オリジナルの方針で生殖能力がないんだ」

 銭太郎は何とか平常心を取り戻そうと努力するけど余計なことまで言ってしまう。

「それは良いことだ、情事のもつれによるトラブルはないってことだな」

 サロメは既にと言うか最初から心を乱してなんかいない。

「それがそうでもなさそうなんだよ、さっき初めて知ったんだけどな」

 銭太郎は焦りから解放されないまま変なことを話し出す。

(これはヤバイな、どうやら性欲ってもんがありそうだ、心の問題か記憶なのかをはっきりさせて改善の必要があるな)

「初めて知ったとか言ったな、お前は私と同年代に見えるけど、もしかして凄く幼いのか?」

「元々は地球人だから30歳だ」

(培養槽を出てからなら1年しか経ってないけどな)

「地球人なら仕方ないか、活動期間が恐ろしく短い種族としてレッドリストに入っていたな」

(レッドリストって何だ!?)

 銭太郎は記憶データを探り星野ミカの記憶の中から答えを見つける。

「よく知っているな、アルファ星で保護してるんだったよね…な」

「そうだけど、お前こそよく知ってたな機密事項の筈じゃなかったか」

「あっ、すまない内緒の話しってことにしといてくれないか、研究所で暇をもて余すと色々と耳に入ってくるんだよ」

「そうか、ますます君のことを必要になったと思うよ」

 2人は話しながら大通りに出ると一番最初に目に付いた飲食店へ入る。

「いらっしゃいませ」

 ウサギ耳を左右に振って出迎えるのはラビット星人だろう。

 そこは喫茶店に見えた。

「ボックス席が良いのだけど」

 サロメがウエイトレスにチップを渡しながら言う。

(あの人は女性でいいのだよな、あのメイド服の下は筋肉隆々の男性体なんて言ったら…)

 またしても変なことを想像しながらサロメの後を付いて歩くと扉の前で立ち止まる。

 ウサギの白い手がドアノブを押し開けてもう片方の手で円を描くようにして招く。

「只今はこちらのお席しか空きがございません。ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」

 銭太郎はその言葉の真の意味を勘繰りながら手を引かれるままに個室に入る。

 そして、狭い個室のアベックシートに2人して並んで座るとサロメがスパイ防止装置をポケットから取り出しテーブルに置いてスイッチを入れた。

「さあ、話しをしようか」

 彼女が楽しそうに言う。

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