第97話 最後の壁。
ディアブロの一撃によって、先ほどまで視界を埋め尽くしていたモンスターの群れは跡形もなく消え去ると、何事もなかったかのように水瀬とベガを連れてテレポートで地上へと帰還し、そのまま「黒盤の箱舟」のメンバーとしてスタンピード警戒任務へと加わった。
ダンジョンの外では既に多くの探索者たちが持ち場に就いていたが、そのほとんどは探索者になりたての新人ばかりで、年齢も水瀬やディアブロと大差ない若者ばかりだった。
そんな中、この場を統括し、現場の管理をギルドから任されているパーティーだけは場慣れした中堅探索者で構成されており、新人たちへ的確に指示を飛ばしながら慌ただしく動き回っていた。
「全員注目!!」
張り詰めた空気を切り裂くように、一人の男が腹の底から声を張り上げる。その一声だけで辺りにいた探索者たちの視線がこの現場の責任者であろう人物へと一斉に向けられた。
「俺はこの場所の管理を任されている西川だ!!俺達の仕事は大きく三つある!!まず、一つはダンジョンから出てくるモンスターを狩ること!!そして二つ目は危険区域に一般人が入らないようにすること!!最後の三つ目は、ダンジョン内に入った探索者が戻って来た時に必要な物を受け渡しすることだ!!」
西川は一人ひとりの顔を見渡しながら力強く言葉を続ける。
「どれもこれも非常に重要な役割だ!!今から、その重要な三つの役割に順番に振り分けて行くから、心して聞くように!!」
その宣言と同時に、西川と同じパーティーのメンバーであろう探索者たちが素早く動き出し、それぞれのパーティーの前へ向かうと担当する役割を一組ずつ伝え始めた。
やがて、その一人がディアブロたちの前にもやって来る。
「あなたたちのパーティーは二人だけであっている?」
「そうです。二人だけです」
女性探索者は水瀬とディアブロを交互に見比べ、小さく頷いた。
「そうね。二人なら戦闘に配備するより他の二つの方がいいわね。じゃあ、ダンジョンから出てきた探索者の手助けに回ってくれる?」
「了解です」
返事を聞いた女性探索者は、それ以上無駄話をすることなく踵を返し、すぐに次のパーティーへと向かって行った。
全ての配置が決まり、現場全体に緊張感がさらに高まる中、西川はもう一度全員へ向かって大声を張り上げる。
「今日ここに集まった全員が、この街を守る最後の壁だ!!誰一人欠けるな!!仲間を信じ、自分の役目を果たせ!!それじゃあ各員‥‥配置に着け!!行くぞ!!!!!!!」
「「「おーーー!!!!」」」
力強い返事が辺り一帯へ響き渡り、それぞれが自らに与えられた持ち場へ向かって駆け出していく。
こうしてスタンピードを何としてでも食い止めるための総力戦が幕を開けた。誰もが命を落とすかもしれないという恐怖と隣り合わせの緊張感を胸に抱え、それぞれが覚悟を決めて動き出す中、ディアブロたちだけは周囲とはまるで違う空気を纏っていた。
「はぁ‥‥何で探索者の手助けにしたの?戦闘の方が良くない?手助けってすごく暇だと思うんだけど。」
周囲が慌ただしく動き回る中、水瀬は退屈そうに肩を落とし、大きくため息を吐きながら不満そうに口を尖らせる。
「何処の役割も一緒だろ。暇なのは同じだ。」
ディアブロは周囲を一瞥しただけで興味を失ったように短く答えた。
「まぁ‥‥それもそうね。それより、さっきのあの攻撃はなに?私、あんたが戦っているところは初めて見たわ。あれって私にも出来る?」
興味津々といった様子で身を乗り出す水瀬に対し、ディアブロは即座に首を横へ振る。
「出来る訳がないだろ。あれが出来るのは今も過去も俺だけが出来る‥‥俺だけの力だ。」
その言葉には自信ではなく、ただ揺るぎない事実を述べているだけという絶対的な確信が滲んでいた。
「私には出来ないのね。じゃあ、また今度見せてよ!!凄くかっこよかったのよね、あの黒い風!!」
「考えておく」
極限状態に置かれている現場とは思えないほど気の抜けたやり取りを交わす二人。しかし、その頃ダンジョン内部では、押し寄せるモンスターの群れを相手に探索者たちが命を懸けた死闘を繰り広げており、怒号と咆哮が絶え間なく響き渡っていた。




