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『世界を統べた覇王と一心同体になった俺は最強の仲間【駒】を揃える』  作者: Lark224a


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第89話 抹消される歴史。

歴史書を読み始めてから、既にかなりの時間が経過していた。


静まり返った空間に響くのは紙を捲る乾いた音だけで、その中心でディアブロは一度たりとも集中を切らすことなく文字を追い続けていた。


古びた本特有の埃っぽい匂いが漂う中、その周囲には読み終えた歴史書が無造作に積み重なり、その数だけでも相当な量を読み漁っていたことが分かる。


そうして最後の一冊を読み終えたディアブロは、ゆっくりと表紙を閉じた。


――パタンと小さく響いた音が妙に耳に残り、その余韻の中でディアブロは深く息を吐きながら低く呟く。


「なるほど‥‥この歴史書が本物だとするなら、世界の歴史はかなり歪められている。」


そこに記されていた内容は、ディアブロの知る真実とはあまりにもかけ離れていた。


自分の存在はもちろん、かつて世界を焼き尽くした大戦争についても一切記されておらず、多種族の成り立ちに関しても全く別の解釈が並べられていた。


魔族、エルフ、龍族‥‥本来ならそれぞれ独自の血脈と歴史を持つ存在であるはずの種族が、この歴史書では人間が進化を重ねた果てに枝分かれするように誕生したことになっている。そして更に、人との間に子を成すことでハーフ種族が生まれたとまで書かれていた。


それは事実を歪めるというより、根本そのものを書き換えたと言っていい。


文明の発展についても同じだった。


魔法や魔術とは別に、人々の理論と論理によって知性が発達し、その果てに化学文明が芽吹き、今の繁栄の礎になったと記されている。そしてその化学文明は魔法文明にまで手を伸ばし、両者を融合させることで“魔法化学”という新たな文明を築き上げたという。


そこだけを見れば、確かに自然な進化の形にも見える。勝者がどの道を選び、どのように発展していくかは自由で‥‥そこに口を挟む気はない。


だが、その土台にあるはずの血と争い、数え切れない犠牲までも抹消していることだけは、到底見過ごせなかった。


「文明の進化には文句はない。どの道を選び進むかは勝者の特権だからな。」


そう言いながら、ディアブロは閉じた本の表紙を指先でなぞる。


「だが、その成り立ちを抹消するのは許せない。歴史には光もあれば闇もある。綺麗な部分だけを並べてしまったら‥‥それは歴史じゃない。ただ都合よく塗り替えられた空想物だ。」


その言葉と共に、指先には自然と力が籠もり、古びた表紙がミシリと小さく軋んだ。


脳裏に浮かぶのは、自分が生まれたあの戦乱の日々。


燃え盛る城壁。崩れ落ちる砦。血に濡れた大地に転がる無数の屍。耳を塞ぎたくなる断末魔と怒号、絶叫が絶え間なく交じり合い、空気そのものが狂気と殺意で満ちていた。


あの地獄こそが、自分という存在を生み出した原点だった。


「そもそも俺が誕生することになった原因は、人と魔族が起こした大戦争にある。あの戦争がなければ、俺は存在していない」


その事実だけは、どれだけ歴史を書き換えようと変わらない。


「俺の存在を消すのは別に構わない。人にとって俺は恐怖の象徴でしかなかったからな。名前を残さないというのも理解は出来る。」


そこまではいい。


世界の汚点として扱われようが、存在そのものを封じられようが構わない。だが、それでも越えてはならない一線がある。


「だが、自分たちが始めた戦争の記録まで消して、自分たちは最初から正しかったみたいな顔をするのは許さない!!」


吐き出された怒声と共に、本の端が握力に耐え切れず僅かに歪む。その怒気だけで、この静寂の空間が震えたようにさえ感じられた。


ディアブロは最初から、自分が善として語り継がれることなど期待していなかった。むしろ逆に、諸悪の根源として永遠に憎まれ、恐れられるものだと思っていたし、それが当然だとも考えていた。


だが現実は違っていた。


消されていたのは自分だけではなく、あの時代そのものが、丸ごと削り取られていたのだ。戦争も、犠牲も、絶望も、憎しみも‥‥何もかもが消えていた。


それだけは許せなかった。


自分が世界に刻み込んだ傷跡は、数百年程度で風化するほど浅いものではない。あれほどの恐怖と絶望を味わったのなら、小さな争いの中であっても必ず人々は思い出すはずだった。


ディアブロという共通の敵を。


そしてその恐怖を教訓として、種族を越え、互いに手を取り合いながら新たな世界を築いていくものだと思っていた‥‥勇者ならそうすると思っていたのに‥‥結局はお前達も‥‥俺と同じで自分の欲で戦っていたってことだな。


世界を救いたいとか、人の思いがどうたらこうたら述べていたが、腹の奥では自分の栄光の為に剣を振るっていたわけだ‥‥実に――結構だ。


痛みも、教訓も、積み重ねた歴史さえも抹消され、その恐怖は時の流れと共に埋もれ、ただ負の歴史として風化していくだけになっていた。


「フフ‥‥アハハハハ!!そうか‥‥世界は痛みを忘れたのか。」


静寂を切り裂く笑い声が響き渡る。


その笑みは狂気に満ちていたが、同時に確信にも満ちていた。


忘れたのなら思い出させればいい!!消えたのなら掘り起こせばいい!!この世界がどれだけ多くの血の上に成り立っているのか、その全てをもう一度突き付けてやればいい!!


「いいだろう。なら今度は俺が本当の歴史をもう一度思い出させてやる。世界はどうして生まれたのか、人間が起こしたフザケタ戦争の全てを洗いざらい掘り起こして、なぜ歴史を抹消したのか‥‥その理由を見つけ出してやる!!」


そう告げると、ディアブロは手にしていた歴史書を空間へと仕舞い込み、積み上げられた本の山を背にゆっくりと立ち上がった。


ここで見るべきものは、もう見た。


ならば次へ進むだけだ。


「この場で見るべきことは見れた。次の場所へと行くとしよう」


そう呟いたディアブロは踵を返し、水瀬の元へ向かうため静かにその場を去っていく。その背中には、忘れ去られた歴史そのものを再び世界へ刻み直そうとする、覇王としての確かな意志が宿っていた。

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