第83話 新たな出会い。
林の姪っ子と会う約束の日を迎えるまで、ディアブロたち《黒盤の覇道》はこれまでと変わらずダンジョン探索を続けていた。
幾度となく潜り、モンスターを狩り、その度に積み上がっていくドロップ品を抱えて戻る日々。今日もまた山のような素材と魔石を持ち帰り、自分たちのギルド《黒盤の箱舟》換金を済ませていた。
発足したばかりのギルドには、まだ人員の受け入れが整っておらず、受付には林の裏仕事を任されている部下が立っていた。黒いスーツに身を包み、鋭く吊り上がった目つきに深く刻まれた傷跡。その姿はどう見ても堅気ではなく、初見なら間違いなく回れ右をするような威圧感を放っている。
こんな男を受付に立たせるなど普通なら正気を疑うが、相手がディアブロたちである以上、男も逆らうことなく従順に手続きを済ませるのであった。
そんな日常を繰り返しているうちに、とうとう林の姪っ子と会う約束の日がやってきた。
待ち合わせ場所はギルドで林が自ら連れて来ると言っていたため、ディアブロと水瀬の二人がソファに腰掛けて待機し、ベガは今回は自宅待機という形を取っていた。
静かな室内に時計の針が進む音だけが響く中、不意に自動扉の向こうから聞き慣れた低い声が届く。
「ほら、雫ちゃん行くよ」
聞こえてきたその声音は、普段の林からは想像もつかないほど甘く、優しさに満ちていた。
いつもなら人を威圧し、たった一声で空気を凍らせるような男が、まるで孫でもあやすかのような口調をしている。その落差だけで、姿を見る前からどれだけ姪を甘やかしているかが分かるほどだった。
隣にいた水瀬も思わず目を丸くし、その意外すぎる一面に言葉を失っていた。
だが、その驚きはそこで終わらない。
「はぁ?雫ちゃんとかちゃん付けで呼んでんじゃねーよ。いつまでも子供扱いしてんじゃねーぞ!!」
返ってきた声は明らかに女のものだったが、その荒っぽい口調はどこぞの不良そのものだった。あまりにも想像していた“姪っ子”像とかけ離れていて、水瀬は思わず眉をひそめる。これから自分が面倒を見る相手だと思えば、嫌な予感を抱かずにはいられなかった。
そして次の瞬間、自動扉が静かに左右へ開き、その姿が二人の視界に映り込む。
――その瞬間、水瀬の思考は完全に止まった。
先ほどの口調から勝手に想像していたのは、派手な金髪にジャージ姿、足元はサンダルで気だるそうに歩く典型的なヤンキー少女だった。だが、現実はその予想を真っ向から裏切る。
そこに立っていたのは、腰まで流れる雪のように白く美しい長髪を丁寧に整えた女性だった。身に纏うのは上質な生地で仕立てられた純白のワンピース。その布地は照明を柔らかく反射し、歩くたびに裾が優雅に揺れる。足元には磨き上げられた白いヒールがあり、その姿はまるでどこかの名家の令嬢そのものだった。
そして何より、その整った顔立ちは息を呑むほど美しく、水瀬と並んでも引けを取らないほどの美少女だった。透き通るような白い肌に鋭さを含んだ瞳。その見た目と先ほどの口調がまるで一致せず、余計に異様な印象を際立たせていた。
そのギャップに、ディアブロでさえ珍しく感嘆の声を漏らす。
「ほぉ~~」
純粋な興味と意外性が混じった声だった。そして、その少女はディアブロたちを真っ直ぐ見据え、迷いなく口を開く。
「あんたらが、俺に力を教えてくれる人か‥‥俺は林雫。雫でいい」
見た目からは想像もつかないほど荒々しく、それでいて妙な堂々さを感じさせる自己紹介だった。
その瞬間、水瀬は心の中で確信する――絶対、面倒な奴が来たと。




