第82話 ギルド発足。
「見ろ。俺達のギルドが発足したぞ」
そう言ってディアブロは手にしたスマホを水瀬へと差し出した。
画面に映し出されていたのは、日本国内に存在する全てのギルドをまとめた一覧サイトであり、探索者達はそこから自分に合った所属先を探し、逆にギルド側も一人でも多くの有望株を取り込むため、様々な言葉を並べて己の価値を売り込んでいた。
『換金率90%!!探索者の利益を第一に!!』、『あの有名探索者も在籍!!二十層突破の実績あり!!』、『自分のペースで伸び伸び探索が出来る!!』
そんな売り文句が次々と並び、どのギルドも少しでも目を引こうと必死に特色を打ち出している。
「へーーギルドってこんなにたくさんあるんだね‥‥全然知らなかった。で、私達のギルドはどんな言葉を書いてるの?」
興味深そうに画面を覗き込む水瀬に、ディアブロは当然のように自分達のページの黒盤の箱舟を表示させると、そこに記されていた言葉は、たった一文だった。
『無能は要らない。求めるのは強者のみ。』
その文字を見た瞬間、水瀬の口元に浮かんでいた柔らかな笑みが、まるで凍り付くようにスッーーと消えていく。そして数秒の沈黙の後、ディアブロへと向けられたのは、心底引きつった「うわぁ‥‥」と言わんばかりの露骨なドン引き顔だった。
「いや‥‥何て言うか‥‥あんたって‥‥本当にどうしようもないんだね」
「は?何でだよ‥‥ただ事実を書いているだけだ。何で俺がそんなバカを見るような目で見られないといけないんだ。」
呆れと軽蔑を含んだ視線を受けながらも、ディアブロ本人にはまるで悪意も自覚もない。ただ純粋に“何が悪いのか”が理解出来ず、不機嫌そうに眉を寄せるだけだった。
「いや、うん‥‥まぁ事実なのは分かるよ。でもさ、これ見て人が来たいと思う?自分の人生を大きく左右する大事な選択をする時に、この言葉を見て『ここにする!!』ってなる?私なら絶対に選ばない。」
真顔で断言する水瀬に、ディアブロは腕を組んだまま首を傾げる。
相手の感情や受け取り方を考慮して言葉を選ぶ。そんな人間社会における高度な“空気読み”という技能は、覇王であった彼にとって未だ習得外の分野であり、その頭上には見えない疑問符が浮かんでいるようだった。
「‥‥分からん。普通は事実を書いた方がいいんじゃないのか?」
「まぁ、それはそう。嘘を並べるよりはずっといい。でも私が言いたいのは“伝え方”の問題だよ。まぁ‥‥これはまだ難しいか。追々ゆっくり覚えていけばいいんじゃない?」
水瀬は小さく肩を竦めると、これ以上説明しても今のディアブロには理解出来ないと判断し、無理に掘り下げることをやめた。そして自然に話題を切り替える。
「それよりさ、姪っ子さんの件、本当に受けて良かったの?私は賛成だったけど」
「そうだな。正直面倒ではある。だが、あいつらとの関係はこれからも続いていくわけだからな。こういう時にやれることは出来るだけやっておいた方が互いの関係も円滑になる。今後得られるメリットまで考えれば、引き受けた方が得だと判断した。」
ディアブロの返答は淡々としていたが、その中には明確な損得勘定があった。感情で動いたわけではなく、あくまで先を見据えた合理的な判断。その辺りは、やはり覇王らしい思考だった。
「まぁ、そうだね。家の件とかもあるしね。互いに協力出来るところは協力した方が、結局私達の為になるもんね」
「あぁ‥‥それと、子供の面倒についてだが、お前に任せるぞ?」
「えっ!?」
あまりにも自然な丸投げ宣言に、水瀬の目が大きく見開かれる。
「え?じゃない。俺が子供の面倒なんて見れるわけがない。それに、お前は子供の扱いに慣れているだろう?だからどう動くかの指示は俺が出す。お前はそれを伝えればいい。それが一番効率的だ」
理屈だけを並べ立てるディアブロに、水瀬は半眼になってじっと睨みつけた。
「別にいいんだけどさ‥‥ずるくない?それ、自分が面倒だから適当に理由並べて私に押し付けてるようにしか見えないんですけどーー?」
「うるさい。時間がない。とっととダンジョンに行くぞ」
それだけ言うと、ディアブロは露骨に話を打ち切るように背を向け、そのまま足早にダンジョンへ向かって歩き出す。
「あーー逃げた!!ベガちゃんもそう思うよね?」
「ワン!!」
抗議の声を上げながら、水瀬はベガと共に慌ててその背を追う。冷たい石造りの入口へと吸い込まれるようにして、三人の姿はやがてダンジョンの闇の中へ消えていくのだった。




