第77話 中間テスト全行程終了。
「そこまで!!全員、ペンを置いてください。」
教師の終了の合図が教室に響き渡ると、生徒たちは一斉にペンを机へと置いた。その瞬間、つい先程まで答案用紙と睨み合う緊張感に支配されていた教室は堰を切ったように騒がしくなり、あちこちから解放感に満ちた声が飛び交い始める。
「よっしゃー!!ようやく終わった!!」
「この後、遊びにでも行くかー」
「あ、それいいな。鬱憤を晴らしに行くか!!」
長かった中間テストがようやく終わったのだ。
今回の試験期間中、Fクラスの生徒たちは実技試験へ向けた訓練に明け暮れながら、その合間を縫うようにして筆記試験の勉強にも取り組んできた。
放課後まで体を動かし続け、その後に机へ向かう日々を繰り返した結果、多くの生徒が慢性的な寝不足になるほど全力で取り組み少しでも良い成績を取り、今まで自分たちを見下してきた周囲を見返したい。
そんな思いが彼らを支えていたのである。
その努力の成果は確実に実を結んでいるはずだった。少なくとも今回の結果は、これまでのFクラスでは考えられないほどのものになっているだろうと誰もが確信していた。
だからこそ全てから解放された今、生徒たちの頭の中にあるのは勉強でも訓練でもなく、溜まりに溜まった疲労とストレスを吹き飛ばすことだった。
「やっぱり打ち上げならカラオケじゃね?」
「いやいや、ボウリングだろ?」
「ゲーセンも捨てがたいぞ」
次々と候補が挙がる中、一人の男子生徒がふと思い出したように声を上げた。
「そうだ、水瀬さんは行きたい場所とかありませんか?」
突然話を振られた水瀬は小さく目を瞬かせる。
「え?私ですか?」
「そうですよ!!今回の試験で俺たちFクラスがここまでやれたのは、水瀬さんのお陰なんですから!!一番の立役者が案を出さないでどうするんですか!!」
周囲からも賛同する声が上がる。
しかし当の本人である水瀬は、内心では打ち上げなど微塵も興味がなかった。
むしろ、どうして自分がそんなものに参加しなければならないのかとすら思っている。彼女にとって重要なのはクラスの交流ではなく、自分の目的を果たすことだけだった。
だが、そんな本音をこの空気の中で口に出来るほど空気の読めない人間ではない。
「そうですね‥‥」
曖昧な笑みを浮かべながら言葉を濁していると、その視界の端で一人の生徒が教室を出て行こうとしている姿が映った。
それを見つけた男子生徒は、何帰ろうとしてるんだよと言わんばかりの勢いで声を張り上げる。
「おい!!春宮ッ!!お前は参加しないのか?」
呼び止められたディアブロは足を止めると、振り返りながら申し訳なさそうに肩を竦めた。
「ごめんね。この後は用事があるんだ。自分の分もみんなが楽しんで来て。」
柔らかい口調でそう断りそのまま教室を後にすると、その姿を見た水瀬も迷うことなく続いた。
「ごめんなさい。私も弟や妹の面倒があるから参加出来ないの。誘ってくれてありがとう。」
断る理由を口にすると、返事を待つこともなく教室を出る。
背後からは残念そうな声や「仕方ないか」という声が聞こえてきたが、水瀬は振り返らなかった。
むしろ、その足取りはどこか軽かった。
◇
校門を出た先で春宮を見つけると、水瀬は当然のように隣へ並んだ。
「で、テストはどうだったの?」
何気ない口調で尋ねると、ディアブロは少し考える素振りを見せてから答える。
「うーーん、特に普通だった。」
「ふん。何が普通だったよ。私が一日付き合ってあげなかったら間違いなく赤点だったでしょ。感謝してよ。」
呆れたように鼻を鳴らしながら言う水瀬だったが、その言葉は事実だった。
ディアブロが今回の筆記試験で赤点を回避出来たのは、水瀬が根気強く勉強を教え続けたことと、元々春宮本人が持っていた最低限の知識があったからだ。そのどちらか一方でも欠けていれば、結果は悲惨なものになっていただろう。
もちろんディアブロ自身もその事実は理解しているが、だからといって素直に感謝の言葉を口にするほど器用な性格はしておらず結果として返ってきたのは沈黙だけだった。
そんな反応を見た水瀬は思わず吹き出しそうになり、クスクスと肩を揺らしながら隣を歩く。
相変わらず不器用で、妙なところだけ頑固でも、そんなところが少し面白いとも思っていた。
「まぁ、今回のことはお互い様ってことで忘れてあげるわ。だから、今日もダンジョンに付き合ってね?」
「‥‥分かってる。」
短い返事だったが、それだけで十分だった。
二人はそのままベガを連れ、夕暮れへと染まり始めた街を抜けながらダンジョンへ向かう。試験は終わったが、彼らの日常はまだ終わらない。
むしろ本番は、これからだった。




