第72話 勝者と敗者。
「クソッ!!どうなって‥‥やがる」
荒北は激しく動揺していた。
その動揺は表情だけに留まらず、剣を振るう動きや足運びにまで現れており、先程まで余裕を漂わせていた姿は見る影もない。
だが、そうなるのも当然であった。
つい先程までなら一撃で地面へ沈んでいた相手が倒れなくなり、自分の攻撃を正面から受け止めるようになっただけでなく、隙を見て反撃まで繰り出してくるようになったのだ。
そしてさらに押し込んだはずの前線も、気付けば少しずつ、しかし確実にFクラスによって押し返されており、その光景が荒北の焦燥をより強く煽っていた。
「この俺の攻撃が‥‥Fクラス如きに止められるだと?そんなのあるはずがない。俺は‥‥強い!! 俺はこんなところで負ける人間じゃない!!そうだ。俺はもっと上へ行ける。誰よりも強くなれる‥‥天才なんだ」
まるで自分自身に言い聞かせるように叫ぶが、その言葉で現実が変わることはなかった。
剣を振るえば受け止められ、力任せに押し込もうとしても踏み止まられる。むしろ時間が経つほどに荒北の体には細かな傷が増え、荒い呼吸と共に疲労も蓄積していった。
そして何より許せなかったのは、自分が格下だと見下していたFクラスの生徒たちが、誰一人として諦めることなく立ち向かって来ることであった。
「もう終わりですね」
そう静かに言葉を漏らしたのは、自陣の核の前に立つ水瀬であった。
水瀬は戦場全体へ視線を向けながら冷静に状況を分析していた。前線は押し返され、各所でDクラスの生徒たちは防戦一方となり、荒北もまた明らかに余裕を失っている。
ここから戦況を覆す手段は存在しないと水瀬には断言出来るだけの材料と根拠が揃っており、結果は、その分析通りに形で終わりを迎えることとなった。
Fクラス対Dクラス。
誰も予想しなかった戦いの結末は、Fクラスの勝利という形で幕を閉じた。
◇
第一回戦終了。
勝ち点三ポイントを獲得したクラスはAクラス、Bクラス、そしてFクラスとなった。
その結果が告げられた瞬間、会場には大きなどよめきが広がった。
教師たちも生徒たちも、DクラスにFクラスが勝利するなど最初から考えていなかったのだろう。勝利を宣言する教師の声には驚きが混じり、僅かに震えさえ含まれていた。
そして、その場で最も衝撃を受けていた人物は間違いなくFクラスの担任であった。
戦いを終えて戻って来た生徒たちを見た担任は、労いの言葉を掛けるどころか開口一番、
「どんな不正したんだ?」
と口にしたのである。
生徒たちの努力や成長を認める気など微塵もなく、勝利そのものを疑う発言をする辺り、この教師は人として色々と終わっていると言わざるを得ないだろう。
もっともFクラスの生徒たちも、その事実はとっくの昔に理解していたので、今さら何を言われようと期待などしておらず担任の言葉に反応する者は誰一人としていない。
全員が当然のように聞き流し、そのまま待機場所へ戻ると次の試験に備えて体を休め始めるのであった。
そして少しの休憩時間を挟み、第二回戦の組み合わせが発表される。
Dクラス対Bクラス、Eクラス対Cクラス、そして――Fクラスの相手は、春宮の幼馴染たちが所属するAクラスであった。
その対戦が発表されディアブロと水瀬はAクラスの方を向くと、向こうにいる神崎と朝比奈もこちらを見ており、その目には明らかな敵意と殺意が込められていた。
そんな目に対してディアブロは「面倒だな。」と言葉にするのであった。




