第71話 Fクラス対Dクラス。
本来なら水瀬の作戦は無謀と言わざるを得ないだろう。
相手はFクラスよりも個々の実力、そして総合力のどちらにおいても遥かに上を行く存在であり、そんな相手へ真正面から挑むということは、搦め手も策も捨てた純粋な力と力のぶつかり合いになるということだ。
そうなってしまったら、どう転んでもFクラスが勝つ未来など存在しない。と誰もが当然のように判断してしまうが、このFクラスだけは違った。
誰一人として敗北を想像しておらず、その表情には根拠のない虚勢ではなく、確かな自信だけが浮かんでいる。まるで勝利を疑うという感情そのものが存在していないかのような異様な空気がクラス全体を支配しており、その光景を目にしたFクラスの担任ですら「とうとう壊れたか‥‥」と本気で思ってしまうほどだった。
そして、そんな“壊れたクラス”と評されたFクラスの初戦が開始される。
◇
「じゃあーー!!みんな突撃ーー!!」
戦場に似つかわしくない、まるで遊びに誘う子供のような無邪気な声を響かせながら、クラス全員へ突撃の指示を飛ばしたのは水瀬だ。
彼女の手には普段ダンジョンで使用している専用の杖はなく、身に纏っているのも戦闘装備ではなく学校指定の体操服だけ。魔道具による補助もない不完全な状態であり、本来なら白魔法の精度も出力も大きく落ちていてもおかしくない。
だが、水瀬の白魔法は一切乱れていない。
むしろ彼女はクラスメイト一人一人の力量を正確に把握し、その者が“ギリギリ勝ち切れる”絶妙なラインを見極めた上で強化を施しており、筋力、反応速度、踏み込み、その全てが無駄なく底上げされている。
力を与え過ぎれば圧倒してしまい逆に弱過ぎれば押し負ける。その紙一重の領域魔法コントロールを水瀬は遊ぶように簡単に行っていた。
その魔法技術は、ディアブロを除けば間違いなくこの場の誰よりも上だと言っていいだろう。
そんな完璧な白魔法を付与されたFクラスの生徒たちは、一気に前線へとなだれ込んでいく。
剣と剣が激しくぶつかり合い、鈍い衝突音が立て続けに響き渡る中、撃破される者もいれば、逆に相手を打ち倒す者もいる。何度も前線は削られ、押し返され、それでもFクラスは止まらず、気付けば戦況そのものがFクラス優勢へと傾き始めていた。
「おいっ!!どうなってるんだ!!相手はあのFクラスなんだぞ!?何でこっちが押されてんだ!!お前ら必死に押し返せ!!」
怒号を飛ばしたのはDクラス代表――荒北将司。
実力だけならCクラス、あるいはBクラスとも十分張り合えると言われる男だったが、その粗暴な性格と素行不良が問題視され、Dクラスへ振り分けられた存在であり、その結果として性格は更に捻じ曲がり、今ではDクラスで暴君のように君臨していた。
そんな荒北にとって、“最底辺”であるFクラスに押し返されるなど屈辱以外の何物でもない。
怒りに顔を歪めた荒北は、役立たずを見るような視線をクラスメイトへ向けると、苛立ちを隠そうともせず吐き捨てた。
「ドケッ!!この役立たず共がッ!!お前ら、この試験が終わったら‥‥覚えておけよ!!全員まとめてボコボコの刑だからなぁ!!この雑魚共がぁ!!」
荒々しく指定武器の剣を抜き放つと、そのまま地面を蹴り砕く勢いで前線へと突撃する。
そして次の瞬間――。
「グハッ!!」
「おぇ!!」
振るわれた一撃だけで、Fクラスの生徒五人がまとめて吹き飛ばされた。
流石は実力だけならC、Bクラス級と言われる存在であり、今のFクラスではその剣撃を真正面から受け止め切ることは出来ない。強引に抉じ開けられた前線は一瞬で崩壊し、それまで押さえ込まれていたDクラスの生徒たちも荒北に続くように一気に前へと雪崩れ込み始める。
このままでは戦況が一気にひっくり返される――そう判断した水瀬は、すぐ隣に立つディアブロへ視線を向けた。
するとディアブロは慌てる様子もなく、ただ静かにゆっくりと頷いた。
その反応を見た瞬間、水瀬の瞳が細められ、次の瞬間には更に強力な白魔法がFクラス全員へと放たれるのだった。




