第69話 始まる試験。
とうとう試験の当日になった。
朝早くから校内には妙な熱気が漂っており、普段なら気怠げに登校してくる生徒達でさえ、どこか落ち着かない様子で試験会場へと集まっていた。
そんな中、水瀬は今日まで徹底してクラスメイト達に訓練を施してきた。だが、その意味は以前のようにクラスメイト達を救う為のものではなく、あくまでもディアブロの願いを叶える為だけの訓練であり、その目的の為だけに彼女は力を使っていた。
そして例の、水瀬にバチボコにされた伊沢と西川の二人に関してだが、伊沢は怪我の影響でそのまま入院となり、本人は水瀬にやられたと必死に訴えていたものの、それを証明出来るだけの証拠は一切なく、最終的には事故として処理された。
一方の西川は、伊沢とは違って身体に目立った怪我こそなかったが、精神面に関しては伊沢以上に深刻なダメージを負っており、それ以来学校へ姿を見せることはなく、そのまま完全に引きこもりとなっていた。
そうしてFクラスの中でも比較的まともだった二人を欠いた状態で試験に臨むことになったわけだが、それでもクラスメイト達の表情に迷いや不安は見えなかった。
むしろ以前までのFクラスとは別人のように、自分達ならやれるという確かな自信を滲ませており、試験前だというのに空気は異様なほど明るかった。
「やっと、この日が来たな」
「だな。俺達が無能のFクラスなんて呼ばれるのも今日で終わりだ」
そんな言葉があちこちから飛び交い、クラスメイト達は興奮を隠しきれない様子で笑みを浮かべていた。
「これぐらいで充分?それとももっと掛けた方がいい?」
水瀬はそんな自信に満ち溢れたクラスメイト達を眺めながら、隣に立つディアブロへと静かに問い掛ける。
そう。クラスメイトの自信は個人の内から出るものではなく、水瀬の魔法によるものであった。
「‥‥まぁ、これぐらいでいいだろ。これ以上に自信を持たれても困るからな。あくまでも適度でいい。バフに関してもギリギリになるように調整してやってくれ」
「はい、了解です」
水瀬は素直に頷きながら返事をするが、その視線の奥には僅かな冷たさが残っていた。
そして、そんなディアブロと水瀬が話している時だった。
「よぅ、久しぶりだな‥‥ハル」
不意に背後から声を掛けられ、ディアブロと水瀬が振り返る。
そこに立っていたのは春宮の幼馴染である二人だった。
二人とこうして真正面から顔を合わせるのは、あの屋上で話して以来であり、周囲の騒がしさとは別に、その場だけ空気が重く張り詰める。
「そうだね‥‥久しぶりだね。元気だった?」
とディアブロは即座に春宮モードへと切り替えていた。
前の状態であれば、その切り替えには一切の準備と時間が必要だったが、今のディアブロは切り替えに一切の淀みもなくスムーズに行えていた。
「あぁ、僕達は元気だよ。てか、ハル‥‥あの時のことを忘れてないよな?俺のことをコケにしたツケはちゃんと払ってもらうからな」
大和は笑っていた。
だが、その笑みには友好的な感情など一切なく、目だけは完全に据わっており、本気で敵意を向けていることが嫌でも伝わってくる。そして、その隣に立っていたもう一人の幼馴染の朝比奈は、真っ直ぐ水瀬の方へと歩み寄っていく。
「あんたもよ。少し可愛いからって調子に乗ってるんじゃないわよ。私とあんたとの才能と力の違いをハッキリ教えてあげる。無能のFクラスだってことをね」
普通なら怯んでもおかしくないほど露骨な挑発。
しかし、水瀬はそんな煽りを受けても眉一つ動かさず、真顔のまま静かに言葉を返した。
「そんなに煽って大丈夫ですか?もし私達と直接戦って負けてしまったら、今あなたが言った言葉全部、自分に返ってくることになりますけど‥‥その覚悟は出来てますか?」
互いに笑みを浮かべながらも、一歩も引かない女同士の空気は完全に火花を散らしており、周囲の生徒達も思わず息を呑んで様子を見守っていた。
だが、そんな一触即発の空気とは対照的に、ディアブロと神崎の間は――
「お前も俺に勝てると思っているのか?」
「いや、全然だよ。僕が君に勝てるなんて微塵も思ってないよ。」
とディアブロは一切迷いなくそう答えた。
そんなぶつかり合いをしながらも時間は過ぎて行き、試験が始まるのであった。




