第64話 条件付きの了承。
ディアブロから返ってきた答えは、まるで最初から結論など決まり切っていたと言わんばかりの「嫌だ」という、あまりにも簡潔で冷たい拒絶の言葉であった。
だが、水瀬も断られること自体は予想していたので、その返答に驚きはなく胸を抉られるようなショックを受けたわけでもないが、ここで引き下がるという選択だけはどうしても出来なかった。
目の前に座るディアブロは、相変わらず興味なさげに頬杖をつきながら視線だけを向けており、その態度からも「これ以上話す価値はない」と言外に告げられているような圧を感じる。
それでも水瀬は唇を強く引き結び、どうにかしてディアブロを説得しようと必死に言葉を紡いだ。
「確かに私達がわざわざ時間を使う必要がないのも分かるよ。でも、私は必要とか必要じゃないとかじゃなく、同じ事を経験した者同士としてどうにかしたいの‥‥お願い。」
真っ直ぐに向けられた懇願の言葉。しかし、その想いを真正面から受け止めた上で、ディアブロは一切表情を変えることなく吐き捨てる。
「‥‥何度言われても答えは変わらない――嫌だ。」
水瀬の必死の願いも、ディアブロは先程と同じように即答で切り捨て、その声音には迷いも躊躇も一切存在していなかった。
ここまで時間を共にしてきた水瀬は、ディアブロという存在に対して一つだけ重大な見落としをしている。
ディアブロは、過去の冷酷で残酷だった自分の選択に対して強い後悔を抱えていて、そんな過去の自分から卒業する気ではいるが、その変化は誰かを傷付けてしまったことへの罪悪感ではなく、あくまで“自分の選択”に対する後悔に過ぎないのだ。
だからこそ、彼は過去を経たことで人に優しくなったわけではないし、弱者を救いたいなどという善性に目覚めたわけでもない。
水瀬を助けたのも、悲惨な人生を憐れんだからではなく、自分の野望を成し遂げる為の戦力になると判断したから助けただけで、そこに同情や慈悲といった感情は存在しておらず。
ただ合理性だけで動いている。
つまり逆に言えば、ディアブロが『自分の戦力になる』と認めた相手には、惜しみなく力を貸すということでもある。
しかし、水瀬はその本質をまだ完全には理解し切れていない。だからこそ、人情や共感に訴え掛けるような言葉では説得しようとするが、その言葉ではディアブロを動かすことが出来ない。
ディアブロは感情で動く人間ではない。動かしたいのであれば、自分にとって必要だと思わせるしかないのだ。
「‥‥分かった。」
不意に、水瀬はどこか諦めたように小さく呟いた。
ディアブロも流石に折れたかと、そう思ったが、それは諦めではなく――
「なら、どうやったら引き受けてくれる?」
水瀬は今度は懇願ではなく、別の角度からディアブロに直接切り込むように問いを投げ掛けるのだった。
流石のディアブロも、この言葉には即答することが出来なかった。
そもそも自分は引き受ける気がないから拒絶しているのであって、「どうすれば引き受けるのか」と問われても、答える言葉などないのだ。
だが、水瀬は引き下がらない。真っ直ぐにこちらを見据えるその瞳には、まだ諦めていない強い意志が宿っていた。
その視線を数秒無言で受け止めた後、ディアブロは小さく息を吐き、敢えて答えを口にする。
「簡単だ。俺を認めさせるだけの可能性を示せばいい。」
「‥‥可能性?」
「あぁ。お前が自分の力を俺に示したように、他の連中も俺を動かすだけの何かを示せばいいだけのことだ。」
その言葉を聞いた水瀬は、まるで答えを確認するようにゆっくりと言葉を返した。
「つまり、力を貸すだけの才能や力を見せればいいんだよね?」
「あぁ、俺が認められる物を持っているなら‥‥俺も力を貸す。」
ディアブロから条件付きとはいえ了承を得た水瀬は、膝の上でぎゅっと拳を握り締める。
「‥‥分かった。私がどうにかしてみんなの才能を証明して見せる。」
その声音には先程までの懇願とは違う、強い決意が宿っていた。
こうして水瀬は翌日から本格的にクラスメイト達と共に試験へ向けた訓練を開始する。
それはただ試験を乗り越える為だけではなく、クラスメイト達の可能性をディアブロに認めさせ、自分達にも価値があるのだと証明する為の戦いでもあった。




