第60話 進展する学校。
水瀬家でのお泊りを終えたディアブロたちは、それからも休むことなくダンジョン探索を続け、常識では到底あり得ない速度で階層を攻略して行った。
探索者たちが一つの壁として認識している十層。
そこへ辿り着くまでに本来なら数ヶ月、才能ある者でも数週間は掛かると言われている中、ディアブロたちは僅か一週間という異常な速度でダンジョンを駆け上がり、世間では中堅レベルの探索者と呼ばれる領域へと到達していた。
そして、その力を手に入れたことで、ディアブロはそろそろ学校での立場を変える為に動き出そうとしていた。現状のディアブロたちの学校での評価は最低ランクであるFクラス。
発言権も自由も殆ど与えられず、教師からも他クラスの生徒からも半ば“失敗作”のような扱いを受けており、まともな人間として見られているとは到底言えない環境だった。
当然、そんな扱いにディアブロの我慢も既に限界へ達している。
力がなければ見下され、価値がなければ存在そのものを否定される。そんな腐った空気が充満したこの学校で、いい加減、自分たちの力を証明する時が来たと考えていた。
だが、それには一つだけ問題がある。ディアブロが本気で力を誇示してしまえば、その瞬間に全ての均衡が崩れるということだ。
仮に学校内でディアブロが持つ力の全てを見せれば、その情報は即座に国へ流れ、やがて政府、探索者協会、研究機関、果ては世界規模の面倒事へと発展して行くだろう。
しかし、それはまだ早い。国を相手に動くには、今はまだ駒も力も足りていない。
故に、ある程度のラインで力を抑える必要があるのだが、ディアブロにとって最も難しいことこそが“手加減”なのだ。自分では軽くやったつもりでも、世間から見れば災害レベルで、その認識のズレこそがディアブロにとって最大のリスクなので、だからこそ、ディアブロは考えた。
自分の力を表に出せないのなら、水瀬の能力と、あのカス共を利用すればいいと。
幸い、水瀬の力は周囲を強化する支援特化型の能力であり、その存在は学校側に一切知られていない。更にはベガは魔獣なので、その存在は空想の世界の存在なので軽々しく人前へ出すことは出来ない。
ならば、水瀬を守る盾のベガの代わりにFクラス共で十分だ。
肉壁として使い潰せばいい。ディアブロは仲間以外の人間に対して、驚くほど冷酷な価値観を持っていた。
そして、後はその時が来るのを待つだけとなった状態で迎えた今日、ついに、その機会が訪れたのだ。
◇
「‥‥今日から中間考査の一週間前となります。まぁ、あなたたちFクラスには特に意味のない話かも知れませんが、一応説明しておきます。」
教壇へ立った教師は欠伸でも噛み殺すような気怠そうな表情を浮かべながら、興味の欠片も感じられない声で説明を始めた。
教室の空気も酷いものだった。前列では真面目な生徒が慌ててメモを取り、後方では諦めきったような顔をした生徒たちが机へ突っ伏している。
誰もがこのクラスに期待などしていない。
教師ですら、既にFクラスを“終わった人間の集まり”として扱っていることが、その態度だけで嫌というほど伝わって来た。
「今回の中間テストは、筆記試験と実技試験の二種類を行います。筆記試験ではダンジョンに関する基礎要項と一般教養のテストを実施しますので、各自しっかり勉強をしておいてください。」
教師は淡々と紙を捲りながら説明を続けるが、その直後、教師の口から放たれた次の言葉に教室の空気が僅かに変わった。
「そして実技試験についてですが、前回はパーティーを組んでダンジョンへ潜ってもらい、討伐したモンスター数に応じてポイント評価を行いました。しかし、今回は方式を変更します。」
その瞬間、教室内に緊張が走る。机へ突っ伏していた生徒たちですら顔を上げ、教師へ視線を向けた。
「今回は――クラス対クラスでの対抗戦を行ってもらいます。」
その言葉が放たれた瞬間に、教室中の空気が一気に張り詰め、生徒たちは――ゴクリと息を飲むのであった。




