第5話 覇王 爆誕。
魂の召喚が完遂され、かつて世界を蹂躙した覇王ディアブロは、この時代に再びその存在を刻み直すこととなった。
「ハハハハハハハハ‥‥」
高らかな笑い声が部屋中に響き渡り、その声音には確かな愉悦と確信が滲んでいる。
「我は‥‥この世に生まれ直した!!俺と同じ意思を持ち、その身を捧げる覚悟を持つ者が現れるのを待ち続け、ついにこの男、春宮 湊が我の魂を呼び起こした。」
かつて勇者との激突の果てに肉体を完全に消滅させながらも、ディアブロは魂だけはこの世に留めていた。
それは、いずれ自分と同じ思想を持つ者が現れるという確信のもとでの選択であり、その時が訪れた瞬間に新たな肉体を得て再び現世へと帰還するための布石でもあった。
そして今、その目論見は現実となり、春宮湊という器を得ることで再び“生”を手に入れたのである。
「生を成したのならば、まずは――我の力を取り戻すところから始めるとしよう。」
だが、その復活は完全なものではなかった。
本来の魂の規模に対して人間という器はあまりにも脆弱であり、そのままでは維持すら困難であるため、ディアブロは自らの力の99.99%を封印することで、ようやく肉体との均衡を保っている状態に過ぎない。
この封印を無理に解けば肉体は即座に自壊し、再び存在を失うことになる以上、まずは器そのものを強化しなければならず、そのためには生物としての進化が不可欠であった。
幸いにも、この時代にはダンジョンと呼ばれる、モンスターと戦うことで力を得られる場所が存在しており、そこに潜り、敵を狩り、進化を重ねることこそが、今の自分にとって最も合理的な選択であると判断する。
ダンジョンへ向かい、モンスターを狩り、進化する――それが、今の我のやるべきことだ。
そう結論づけたディアブロは、迷うことなくその目的地へと歩みを進めた。
◇
ディアブロが消滅してから気の遠くなるような年月が流れ、世界はかつての面影をほとんど残さぬほどに大きく変貌しており、外へと足を踏み出した彼の目に映る光景は、まさに未知そのものであった。
かつては木や石で構築されていた建造物は、今では透明なガラスによって形作られ、空を映すように輝いており、街を行き交う人々の姿もまた、ディアブロが知るものとは明らかに異なっている。
彼の時代には彼だけがハーフであったが、この世界ではハーフという種が当たり前のように溶け込み、さらに世界は“科学”という概念の発展によって、魔法とは異なる形で進化を遂げていた。
それらの情報自体は春宮湊の記憶から既に理解していたが、実際にその光景を目の当たりにすることで得られる感覚はまるで別物であり、知識として知っていることと、体験として理解することの差を強く実感させられる。
「この世界が‥‥我がかつて支配していた世界なのか。本当に同じ世界なのか。どう変化をすれば、このような進化を遂げるのか‥‥知りたい。」
ディアブロが抱いた興味は、完成された結果ではなく、そこに至るまでの“過程”そのものであった。
自らの死後、この世界がどのように変化し、どのような道筋を辿って現在に至ったのか――その記録は春宮の記憶の中には存在せず、おそらくはどこを探しても完全な形では残されていないだろう。
なぜなら進化とは、破壊と再生を繰り返すことで生まれるものであり、その過程のすべてが綺麗に残ることなどあり得ないからである。
そうして世界を観察しながら歩みを進めていたディアブロの前に、やがて一つの異質な存在が姿を現す。
それは、天を突き刺すかのように聳え立つ巨大な建造物――ダンジョンであった。
周囲の建造物がこの世界に適応した近代的な形をしているのに対し、その構造は明らかに異質であり、まるでディアブロが生きていた時代の遺物のように、古き様式を色濃く残している。
神殿のような装飾が施され、機械ではなく人の手によって作られたと感じさせる温もりと、どこか魂のようなものを宿しているかのようなその佇まいは、ディアブロにとって懐かしさを覚えさせるものであった。
「‥‥これがダンジョンか。この存在だけは我が生きていた時代の気配を残しているようで、実に懐かしい。ならば――そろそろ行くとしよう。」
そう呟いたディアブロは、一切の躊躇なくその内部へと足を踏み入れる。
新たな時代において、再び覇王が動き出す瞬間であった。




