第4話 地球と呼ばれる星。
――20XX年 地球。
かつて、この星がまだ地球と呼ばれる以前の時代に、この世界のすべてを支配する存在がいた。
その者は己と力のみを拠り所にあらゆるものを奪い去り、その手に触れた者には死が降りかかり、その足が踏みしめた地は崩壊すると語られていたが、それらはすべて誇張ではなく紛れもない事実であった。
ゆえに世界のすべての種族はその存在に恐怖し戦慄し、長い歴史の中でいつしかその者は――『覇王』と呼ばれるようになる。
覇王は己の欲望のままに奪い、壊し、蹂躙し続け、その果てにこの星そのものへと手を掛けたが、さすがに世界はそれを許さず、この星に生きるすべての生命の力と想いが結集されたことで、ついに覇王は打ち滅ぼされた。
その結果として世界には平和が訪れ、破壊された建造物や大地、自然や海は長い年月をかけてゆっくりと再生していき、同時に変化したのは環境だけではなく、この星に生きる種族そのものでもあった。
かつては絶え間なく争い続けていた種族同士は、覇王という共通の敵を経て互いに手を取り合うようになり、その過程で異なる種族同士の間に新たな命が生まれるようになったことで、『ハーフ』と呼ばれる存在が誕生していく。
人と魔族のハーフ、エルフと人のハーフ、人と龍族のハーフといったように、人族は他種族との間に子を成すことが可能であったため、長い年月の中でハーフ種族は爆発的に増加し、やがて世界の人口の九割を占めるまでに至った。
そんなハーフ種族が大半を占める世界において、純度100%の正真正銘の人間として生まれた存在がいた。
その名は、春宮湊。年齢は17歳、性別は男である。
純粋な人間であること自体が罪というわけではないが、問題はその“力の弱さ”にあった。
エルフのような高度な魔法や知能もなく、魔族のような膨大な魔力や身体能力もなく、龍族のような圧倒的な破壊力や威厳も持たない人族は、知識・魔力・威力のいずれにおいても他種族に遠く及ばず、結果として全種族の中で最も下位に位置する存在とされていた。
それでも春宮は諦めなかった。
自分にも何か出来るはずだと信じ、出来ることを探し続け、努力を重ね続けたが、そのすべては結果に結びつくことなく、やがてある出来事をきっかけにその心は完全に折れてしまう。
そして彼は、自分という存在を根本から変えるために、人が決して手を出してはならない禁忌へと手を伸ばすことを決意した。
――魂の召喚。
それは自らの魂に既に死んだ者の魂を呼び込み融合させる魔法であり、存在の根幹を書き換える極めて危険な禁忌魔法の一つであったが、春宮にとってそれは“唯一残された可能性”であった。
すべてを理解した上でなお、その選択しか残されていなかったのである。
そして魔法を発動させた彼は、自らの望みを静かに告げた。
それは――力。
そして――自分を決して裏切らない仲間。
その願いに応えるように、魔法は適合する魂を引き寄せ、春宮の内側へと流し込む。
「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」
その瞬間、これまでに経験したことのない激痛が全身を襲い、あまりの苦痛に耐えきれず意識を手放してしまうが、魔法は止まることなく進行を続ける。
器の中で二つの魂は混ざり合う――はずだった。
だが、召喚された魂はあまりにも強大であり、春宮の魂を抵抗の余地もなく飲み込み、その存在を完全に消滅させてしまう。
結果として肉体の主導権は召喚された魂へと移るが、その力はあまりにも規格外であり、今度は肉体の方が耐えきれず崩壊を始める。
このままでは器そのものが壊れ、存在を維持できないと判断した魂は、自らに強制的な制限を課し、代償を支払うことでようやく肉体を安定させることに成功した。
『これより肉体の改造を開始します。』
無機質な声が脳内に響く。
『器の破壊率――80%。魂の能力を99.99%封印し、破損した肉体は元の魂‥‥春宮 湊の魂を使用して修復しますが、記憶は合併します――成功。
肉体の修復――完了。続いて魂の定着を開始します――10%‥‥20%‥‥50%‥‥75%‥‥100%。
魂の定着――完了です。』
そして最後に、静かに告げられる。
『お目覚めの時間です――ディアブロ。』
その言葉と共に、新たな存在としての春宮湊は、ゆっくりとその目を開いた。




