第49話 荒療法。
そうして迎えた翌日――。
ディアブロは、幼馴染と交わしてしまった『友達に会わせる』という約束について、一人静かに頭を悩ませていた。
あの場では、とにかく早く解放して欲しいという気持ちが先行し、深く考えることもなく了承してしまった。だが、時間が経って冷静になればなるほど、あの二人と水瀬を会わせるという行為が、決して良い結果を生むとは思えなくなっていく。
ディアブロと出会う前の水瀬は、誰が見ても可愛くない女子だった。
纏う空気は暗く、常に他人の顔色を窺うような怯えた雰囲気を漂わせており、その陰気さは外見だけに留まらず、存在そのものが『関わりたくない』と思わせてしまうほどだった。
だが、その暗さはディアブロと出会ったことで大きく変わった。
中身も外見も徹底的に磨き上げられ完璧を追求されたことで、以前まで彼女を覆っていた暗さは日を追うごとに薄れていき、今では世の中にいるアイドルやモデルといった“陽”の存在にも負けないほどの輝きを放つようになっている。
だからこそ、ディアブロは危惧していた。
自己のプライドがタワマン並みに高いあの幼馴染たちが、今の水瀬を見て何も思わないはずがない。
嫉妬、劣等感、あるいは気に食わないという感情だけではないとは思うが理由は何であれ負の感情を抱けば、その矛先はディアブロではなく、水瀬へ向けられる可能性が高い。
嫌がらせ、陰口、敵意を含んだ視線‥‥そういったものを向けられる可能性は十分にあり、ディアブロはその点についてずっと頭を悩ませていた。
それこそ、交わした約束を有耶無耶にし、このまま自然消滅させることすら考えていたディアブロだったが、最終的には水瀬の精神面を理由に、敢えて二人を会わせるという選択を取った。
これまで幾度か接してきた中で、ディアブロは、水瀬が時折自身の過去を思い出したように精神を不安定にさせる瞬間があることを理解しており、過去に受けた暴言や扱いによって刻まれた傷は今なお彼女の心に深く突き刺さったままで、表面上は笑えるようになったとしても、その奥底には未だ抜けない棘のように残り続けていることも分かっていた。
ディアブロとしても時間を掛けながら少しずつ改善させていくつもりではいたのだが、装備の件にも一区切り付き、これから先さらに成長させていくことを考えれば、いつまでも過去に囚われたままでは話にならないと判断し、多少強引であろうとも荒療法を選択したのだった。
仮に――
この荒療法によって水瀬のトラウマが再び蘇り、完全に心が折れてしまったとしよう。その時は、おそらくディアブロは迷うことなく水瀬を切り捨てるだろう。
ディアブロが水瀬たち仲間に求めるものは、戦闘能力だけではなく精神面も含めた全てにおいての“完璧”であり、どんな大きさであっても弱さ持つことなどは許されず、自らの力で乗り越えられるだけの強さを持っていなければならない。
仮にディアブロがその度に心を支え、壊れるたびに修復していたとしても、結局またどこかで同じことを繰り返すだけであり、その度に心を壊し、その度にディアブロが修復する。
そんな関係を永遠に続けるつもりなど、ディアブロには微塵も考えていない。
結局のところ、この問題を本当の意味で解決する方法は一つしかない。それは、水瀬が自身自らの意思で過去を乗り越え、そのトラウマを打ち破ることが唯一の方法なのだ。
そう判断したディアブロは、昼休みに水瀬と共に弁当を食べている場へ、幼馴染の二人を招待していた。無論、そのことは水瀬には一切伝えていない。
つまり水瀬からすれば、ディアブロに幼馴染がいることすら知らず、その二人がここへ来ることも知らなずして扉が開いた瞬間に初めて知ることになり、何の心構えも無いまま完全な初対面を迎えることになる。
だが、人間関係に対する恐怖や過去の傷を克服するには、むしろこれ以上ないほど適した状況だとも言えるだろう。
そうして二人でしばらく穏やかな時間を過ごしていると、普段であれば絶対に開くことのない屋上の扉が、不意に重々しい音を立てて開かれる。
その瞬間、水瀬の肩が僅かに揺れた。
そして扉の先から姿を現した二人の幼馴染は、ディアブロへ視線を向けた後、その隣に座る水瀬の存在を認識すると、値踏みするような目を向けながらゆっくりとこちらへ歩み寄って来るのだった。




