第36話 力の証明。
依頼主からディアブロに突きつけられた条件は『力の証明』
それは至極当然であり、むしろこの規模の依頼であれば提示されない方が不自然と言える内容だったが、ディアブロはその提案を迷うことなく了承したものの、その場では具体的にどのような形で証明を行うのかについては闇金側ですら知らされておらず、伝えられていたのはただ一箇所の住所のみという、あまりにも情報の欠落した状態だった。
そして、その住所が意味するところは明白であり、“その場所に来い”という一点以外に解釈の余地はなく、闇金側もそれ以上の情報を持ち合わせていない以上、残された手段はディアブロ自身による調査に限られていたが、現在の身分と権力で出来ることは、せいぜい指定された住所を検索する程度に過ぎず、実際に検索を掛けてみても表示されたのはごく一般的なマンション街で特別な施設や機関の気配など一切感じさせない、あまりにも“普通”な場所だった。
このような場所で一体何を証明させるつもりなのかと疑問を抱くのは当然のことであり、だがその疑問に対する答えは、いくら思考を巡らせたところで導き出せるものではなく、結局は現地に赴き、自らの目で確かめる以外に選択肢は存在しなかった。
そうして迎えた当日――
指定された場所へと足を踏み入れたディアブロの前に現れたのは、黒いスーツに身を包んだ二人の男であり、その立ち姿には隙がなく、単なる案内役というよりも、明確な“監視”と“管理”の意図が感じ取れる。
「あなたがDですか?」
「あぁ、そうだ。」
D――それはディアブロが自らの素性を隠すために用意した仮初の名であり、今の彼の格好もまた、素顔を覆い隠す仮面と、体のラインすら悟らせない長いマントによって構成され、個人を特定するための情報は一切外に漏れないよう徹底されていた。
「武器の所持がありましたら、このケースに入れてください。」
差し出されたケースは一見して何の変哲もないものに見えるが、その内部には高密度の緩衝材と識別用のタグが備えられており、単なる預かりではなく、厳密な管理下に置かれることを示していた。
「ない。」
短く返された言葉に、男はわずかに頷く。
「分かりました。では、このままマンションの中にお入りいただき、ボディースキャンを受けていただいた後、用意された服にお着替えください。」
その言葉に従い、ディアブロは無言のままマンション内部へと足を踏み入れる。
一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わる。
外観こそ一般的な建物と何ら変わらないものの、内部は完全に別物だった。壁面は継ぎ目の見えない特殊な素材で構成され、天井には無数の微細なセンサーが埋め込まれており、侵入者の存在を瞬時に検知する仕組みが張り巡らされている。
次の瞬間――
機械的な駆動音と共に、壁面と天井の一部が滑らかに展開し、アーム状の装置が複数現れる。
それらは無駄のない動きでディアブロの周囲を取り囲むと、赤外線、レーザー、磁気反応、さらには微細な魔力波長までを同時に解析するかのように、全身をくまなく走査していく。その動きには一切の迷いがなく、まるで“人を調べている”というよりも、“存在そのものを分解している”かのような精密さを帯びていた。
拒否も遅延もなく進行した一連の検査結果は、そのまま問題なしという判定を意味しており、ディアブロは何事もなかったかのように開かれた先へと足を進め、指示通りに用意された衣服へと着替えを済ませると、そのまま迷いなくさらに奥へと進んでいく。
そして、その先に広がっていた光景に、わずかに目を細めた。
そこには、今回の依頼に志願した探索者たちが整然と並んでおり、その数は十や二十といった規模では到底収まらず、視界の奥まで埋め尽くすように、数百人にも及ぶ人影が静かに佇んでいた。
ただの依頼ではない。
それだけは、この光景が何より雄弁に物語っていた。




