第2話 始まり。《後編》
『覇王』を討つべくして結成されたパーティーは、長き時を経てついにディアブロが住まう城へとたどり着いた。
その城は、かつて亡き父が支配していた魔王国の象徴たる魔王城であり、現在はその玉座にディアブロが深く腰を掛け、訪れるべき時を静かに待ち続けていた。
そして――その時は、確かに訪れる。
「よくぞ参った。」
深く闇を孕んだ声が広大な玉座の間に響き渡り、その一言だけで空気そのものが震え上がるかのような圧迫感を生み出し、勇者パーティーの心を大きく揺さぶった。
ただ言葉を発しただけで相手の精神に干渉するかのような覇気を纏い、その立ち振る舞いには、まさしく世界を破壊し支配してきた覇王に相応しい圧倒的な風格が宿っていた。
だが、世界の平和を取り戻すために全種族の想いを背負って集結した勇者パーティーもまた、その威圧に屈することなく、同等の覚悟と力を込めて言葉を叩き返す。
「ディアブロ!!今日、お前を‥‥討つ!!」
その叫びは決意そのものであり、恐怖を押し潰してなお前に進もうとする意志の現れであった。
その反応を受けたディアブロは、ようやく“楽しめる相手”が現れたかのように口元を歪めて笑みを浮かべ、自らの覇気に呑まれることなく言葉を返してきた彼らを静かに見据える。
同じ土俵に立つことを許された存在――その事実だけで、ディアブロにとっては十分に価値があった。
ゆえに、その巡り合わせに感謝するかのように、ゆっくりと王座から立ち上がる。
「面白い。よかろう、我も全力で相手をしてやろう。」
視線が交差する。
強者と強者が対峙するその瞬間、空気は張り詰め、その先に待つ結末が“平和”か“破滅”かなど誰にも分からぬまま、ただ互いに“相手を倒す”という一点のみに意識を集中させていた。
そして、その均衡を破ったのは――人類の希望を一身に背負う『勇者』であった。
ドワーフの技術の粋によって生み出された至高の剣を抜き放ち、一切の迷いなくディアブロへと斬り掛かるその一撃は、まさに人類の到達点とも言える速度と威力を兼ね備えていたが、その刃はディアブロの小指一本によって、あまりにも容易く受け止められる。
「なッ!!ふざけるな!!」
全力で力を込めて押し込もうとするも、剣は微動だにせず、まるで大地そのものに固定されているかのように動かない。
「ふん。まだまだ軽いな。」
そう呟いたディアブロは、指先で剣を押し退けると同時に、無防備となった腹部へ一撃を叩き込もうと踏み込むが、その瞬間、勇者の姿が視界から掻き消える。
「ほぅ、テレポートか。そこの耳長の女の魔法か。テレポートとは珍しい魔法を使うな、面白いが、耳長如きに救われるとは何とも情けない男だな。近代の勇者は雑魚なのかのう?」
嘲るような言葉が静かに落とされ、その一言一言が確実に勇者の神経を逆撫でしていく。
「ぐッ!!黙れ!!」
激情に任せて睨み返す勇者は、既にディアブロのペースへと引きずり込まれつつあったが――
「勇者様!!落ち着いてください!!」
その流れを断ち切るように、先程テレポートで救ったエルフが鋭く声を掛け、そのまま冷静な判断を促すように言葉を重ねる。
「このまま相手のペースに巻き込まれてはいけません。一度落ち着き、全員での連携攻撃で仕留めましょう。私達は個人ではなくパーティーです――そこを忘れては覇王は倒せません。」
その指摘はあまりにも的確であり、勇者個人の力では決して届かないという現実を、先の一撃が既に証明していた。
小指一本で止められた時点で、個としての勝敗は決していたのだ。
「ぐッ!!」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、その言葉を受け入れ、深く頷く。
その様子を見ていたディアブロの口元から、不意に、意図せぬ笑みが零れ落ちる。
‥‥俺は何を笑っている?こいつらを見て笑うだと?意味が分からない。
その違和感に思考を取られ、一瞬だけ意識が逸れる。
「よそ見をするな!!」
その隙を突くように、背後へと転移していた勇者が斬撃を振るうが、ディアブロは焦ることなくそれを受け止め、再び正面から対峙する。
力比べになれば勝敗は明白――その事実を理解している勇者は、もはや単独で挑む愚を犯さない。
その身に赤きオーラを纏い、力を極限まで引き上げたその瞬間、今度は逆にディアブロの体を押し退け、そのまま後方へと吹き飛ばすことに成功する。
だが、それすらも布石に過ぎなかった。
吹き飛ばされた先――そこには、新たな魔王が張り巡らせた罠が待ち受けている。
「ぐぅ!!」
空間そのものが歪むかのような重圧がディアブロの全身にのしかかり、その動きを完全に封じ込める。
その一瞬の拘束を逃さず、エルフの「今よ」という合図に呼応して、勇者と龍巫女が同時に踏み込んだ。
「俺の最大の一撃を食らえ!!」
「我々、龍族の積年の恨みよ!!」
二人の渾身の力が一点に収束し、さらに魔王の強化が重ねられたその一撃が、ついに覇王ディアブロへと叩き込まれる。




