第20話 二人目の仲間。
「‥‥そんなこと言わなくても‥‥分かってる。でも、しょうがないでしょ。どれだけ望んでも手に入らないんだから‥‥私だって、何度も思ったし、何度も想像した。」
声は震えていたが、その奥には押し殺してきた感情が滲んでいた。
「探索者になって、最高の仲間と共に夢に向かって頑張ることを夢見てた。だけど、結局、私にはそんな才能はなかったし、家族を幸せにすることも出来ない!!」
言葉を吐き出すごとに、胸の奥に溜め込んでいた想いが決壊していく。悔しさも、情けなさも、諦めきれなかった願いも、その全てが混ざり合ったまま、制御出来ずに溢れ出ていた。
「だから諦めるのか?自分には才能がないと決めつけて終わるのか?」
低く、揺るがない声音が返る。その問いは責めるものではなく、ただ事実を突きつけるような重さを持っていた。
「なら、どうしろって言うのよ!!」
思わず張り上げた声は、どこか泣き叫ぶようにも聞こえた。怒りではない。どうしようもない現実に押し潰されそうになっている者の、最後の抵抗だった。
「何度も言ってるだろ。我の仲間になれと。」
ディアブロは一切の迷いなく言い切る。
「我の仲間になれば、お前が抱えているものは全て解決する。才能も、借金も、家族も‥‥そして、未来もだ。」
その言葉には誇張も迷いもなく、ただ“当然のこと”を述べているかのような絶対的な確信があった。
「‥‥何を根拠に言っているの?」
結奈は視線を落としながらも、かすかに震える声で問い返す。
「私だって何もせず諦めたわけじゃない。私にも何か一つでも才能があることを信じて、出来ることは全部試した上で言っているの。」
その言葉には、自分なりに足掻いてきた時間の重みがあった。何度も期待して、何度も裏切られて、それでも諦めきれずに手を伸ばし続けた過去が滲んでいる。
「全部試したか。」
ディアブロは小さく呟く。
「その認識は間違っている。お前の才能は今の世界では絶対に開花させることも、見つけることも出来ない特別な力だ。」
それは迷いも揺らぎも一切含まない、断言だった。
否定されることにも、疑われることにも慣れていたはずの結奈の心に、その言葉だけは真っ直ぐに入り込んでくる。これまで何度も「無理だ」と言われてきたし、自分でもそう言い聞かせてきたはずなのに、まるでそれら全てを否定するかのように言い切られたその一言が、胸の奥に残り続けていた“わずかな可能性”を無理やり引きずり出してくる。
「‥‥特別な力。あんたなら開花させることが出来るの?」
恐る恐る、それでも完全には捨てきれなかった期待を滲ませながら結奈は問いかける。これまで何度も裏切られてきたはずの“可能性”という言葉に、それでも縋ってしまう自分を止めることが出来なかった。
「もちろんだ。」
間髪入れず返されたその一言はあまりにも即答で、あまりにも迷いがなく、それ故に嘘をついているようには到底思えなかった。
「私は探索者になれるの?」
「もちろんだ。」
一つ目の問いに対する即答。その声には一切の揺らぎがない。
「私は幸せになれるの?」
「もちろんだ。」
二つ目の問いにも、同じように即座に返される肯定。そこには慰めも同情もなく、ただ事実を述べているかのような絶対的な確信だけがあった。
一つ一つ確かめるように投げられる問いは、どれも結奈がこれまで諦めてきたものばかりであり、それに対して一切迷うことなく肯定を返し続けるディアブロの姿は、まるで“出来ない”という前提そのものを否定しているかのようだった。
「私は‥‥自分の未来を歩いていいの?」
その問いだけは、これまでとは明らかに違っていた。声はか細く、今にも消えてしまいそうなほど弱い。それでもそこには、誰にも見せることなく押し殺してきた願いと、何度踏みにじられても消えなかった想いが確かに込められていた。
「もちろんだ。」
ディアブロは一歩も引かずに応える。その声音には、これまでと同じく一切の揺らぎがなく、それどころかその言葉を現実にすることを当然としているかのような重みすら含まれていた。
「お前が我の仲間になるというなら、全てを与えてやる。だから、お前も我に全てを差し出すんだ。お前が我の為に働き続ける限り、我はお前に未来を与えてやる。」
それは優しい救いの言葉ではない。対価を伴う、絶対的な契約の提示だった。それでもなお、その言葉の中には偽りが一切感じられず、むしろ“それを実現出来る者だけが言える確信”が込められていた。
結奈はしばらくの間、何も言えずに立ち尽くす。胸の奥で何かがせめぎ合っていた。これまでの現実と、今差し出されている未来、そのどちらを選ぶべきかを必死に考えている。
やがて――ゆっくりと顔を上げた。
「‥‥分かった。」
その声は、先程までの弱さを含みながらも、確かに一歩踏み出した者のものだった。
「その言葉が嘘だったら‥‥絶対に許さないからね。」
震えは残っている。それでも、その瞳には確かな意志が宿っていた。
「あぁ、それでいい。」
ディアブロはわずかに口元を緩める。
「お主には、我が軍を底上げし、戦場を支配する力――支援と強化、そして命を繋ぐ力を兼ね備えた駒を授けよう。お主は我が“ビショップ”だ。」
その宣言と同時に、空間に浮かび上がったビショップの駒が淡い光を放ちながら結奈へと引き寄せられていき、抗う暇すら与えられないまま、そのまま彼女の体内へと吸い込まれていく。
次の瞬間――魂の奥深くに、何かが刻み込まれるような感覚が走り、それが単なる力ではなく、決して覆ることのない“契約”であることを、本能的に理解させられる。
それはディアブロと結奈、二つの存在を強制的に結びつける絶対的な繋がりであり、誓いを破れば命を奪い、守り続ける限りは力を与え続けるという、まさに魂そのものを賭した主従関係だった。
もはや逃げ道など存在しないが、それと同時に、この契約は確かな“力”と“未来”を与える証でもあり、選び取った以上はその全てを背負うことになるという現実を、静かに突きつけてくる。
こうして――
覇王ディアブロが求める“最強の仲間【駒】”の二人目が、ここに誕生したのである。




