表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『世界を統べた覇王と一心同体になった俺は最強の仲間【駒】を揃える』  作者: Lark224a


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/35

第16話 2000万の行き先。

闇金たちの車に乗り込んだディアブロと水瀬は、エンジン音とタイヤがアスファルトを擦る単調な振動に包まれながら、学校で話した時以来の会話を始めた。


「どうしてなの?何で、私の為にそこまでするの?私となんてそんなに関わりもないのに、どうして?」


声は抑えられていたが、その奥には戸惑いと、理解出来ないものに対する恐怖が確かに滲んでいた。


ディアブロはすぐに答えず、流れていく街の光を一瞬だけ横目で追ってから口を開く。


「助けた理由はちゃんとしたものがあるんだけど、今は話せない。でも、これだけは覚えておいて。」


「な、なに?」


わずかに身を強張らせながら、水瀬が問い返す。


「――タダで助けるつもりはない。」


静かな声音だったが、その言葉は確かな重みを持って落ちた。


無料の善行など存在しない。全ての行動には必ず利がある。利があるからこそ人は動く。それを否定する存在がいるとすれば、それはただの例外――”勇者”と呼ばれるような連中だけだ。


あいつらは人の為に自分の全てを犠牲にする、ただの偽善者だ。

そういう意味では、水瀬もまた”偽善者”だな。


「分かっているわ。借金を何とかしてくれるなら、私は何だって耐えられるわ。」


その言葉に迷いはなく、ただ覚悟だけが宿っていた。


「そうか。その言葉を信じるよ。」


短く返された言葉には、それ以上を語る意思はなかった。


こうしてディアブロと水瀬は闇金の事務所へと向かうのであった。



車が停まり、ドアが開いた瞬間、外の空気が流れ込んでくる。排気ガスと湿ったコンクリートの匂いが混じった、裏路地特有の空気だった。


「ここが、俺たちの事務所だ‥‥ついて来い。」


案内役の男が顎で指し示した先には、古びた雑居ビルがあった。看板も目立たず、出入りする人間も少ない。意識して見なければ見過ごしてしまうような場所だ。


だが、一歩中へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。


廊下の奥、階段の踊り場、視界の端――直接姿は見えなくとも、確かに“見られている”という感覚だけが肌に張り付くように残る。


闇金の事務所にしては狭い印象だが、それはむしろ合理的だ。規模を大きくすればするほど足が付きやすくなる。あえてこの程度に抑えているのは、生き残る為の選択だろう。


そうしてビルの中の一室へと案内された。


扉を開けた瞬間、煙草の匂いが鼻を突く。古びたソファ、擦れたテーブル、雑多に積まれた書類――生活感はあるが、どこか無機質で、落ち着く空間ではない。


「少し、ここで待ってろ。今、社長を呼んでくる。」


そう言い残し、男は奥の部屋へと入っていった。


残された空間に落ちた静寂は、時間の経過と共にじわじわと重さを増していき、時計の針の音すら存在しないその空間の中で、外とは明らかに異なる張り詰めた緊張だけが確かに存在していた。


やがて、奥の扉が軋むような音を立てて開かれ、先程の男に続く形で、もう一人の男がゆっくりと姿を現す。


その瞬間、目に見えない何かが部屋全体を押し下げたかのように空気が重く沈み込み、無意識に呼吸を浅くさせる圧がその場を支配した。


背丈は特別高いわけではなく、体格も常人と大差はない――だが、その全身から滲み出る“場を掌握する気配”だけが明らかに異質であり、ただそこに立っているだけで周囲の空気を塗り替えてしまうほどの存在感を放っていた。


視線が合った瞬間、相手を値踏みするような圧が肌を刺す。長年この世界で生きてきた者だけが持つ、研ぎ澄まされた危険な気配だった。


その男は迷いなくソファへと歩み、どっしりと腰を下ろす。革が軋む音が静かに響いた。


ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。紫煙がゆっくりと立ち昇り、部屋の空気をさらに濁らせる。


「こいつから話は聞いた。お前の言っていることが真実かどうかを確かめる。その物を見せろ。」


無駄のない言葉だった。だが、それだけで場の主導権が誰にあるのかは明白だった。


ディアブロは一歩前に出ると、収納のスキルを発動し、空間からブラックドラゴンの魔石を取り出して机の上に置いた。


鈍く光を放つその石が、テーブルの上で異様な存在感を放つ。


「これはブラックドラゴンというモンスターの魔石だ。魔石の相場は最低ランクのFランクの物でも1万はする。そしてブラックドラゴンはSランク以上のモンスターに該当する。


つまり、この魔石の価値は数十億は優に超える。俺の話が嘘だと思うなら、魔石のマナを調べてみればいい。恐らく計測不可と出るはずだ。」


男はわずかに目を細めると、無言で部下に指示を出す。


すぐに持ってこられたのは黒縁のメガネだった。それはモンスター素材や魔石のマナを測定する為に、ギルドや国が一部の組織にしか保有を許していない代物だ。


男はそれをゆっくりと掛け、魔石を覗き込む。


沈黙が落ちる。


わずかな時間だったが、その場にいる全員にとっては妙に長く感じられた。


やがて、男が息を吐く。


「‥‥確かにお前の言う通り計測不可だな。」


メガネを外し、テーブルに置く。その動作には確かな納得が含まれていた。


「なるほど、どうやらお前の話は本当のことのようだな。でだ、本題はここからで、お前の話では、これを俺達に換金を頼みたいってことだったな。


じゃあ、まずそっちの求める取り分を聞かせてくれや。」


声の色が変わる。完全に“商談”へと切り替わっていた。


「分かった。今回のこの魔石を全て売ることが出来たらその売り上げは数十億を優に超えるが、こんな魔石を全て売るとなると、それなりに時間も掛かるだろうし、加工の手間もある。


だから、総売り上げの分配はこっちは4割で、そっち6割でいい。ただ、この魔石をそちらに渡す代わりに前金を貰いたい。今回なら一億でどうだ?」


ディアブロの声には一切の揺らぎがない。


男は煙草を口に咥えたまま、じっとディアブロを見つめる。その視線は値踏みするようであり、同時に未来を測るようでもあった。


「ふーーーん‥‥まぁ、悪くない。ただ一つ聞かせろ。」


煙を吐きながら、ゆっくりと言葉を続ける。


「お前はこれからもそれと同じぐらいの物を持ってこれるのかどうかだ。返答はその答え次第だ。」


「‥‥あぁ、持ってこれる。そして、必ずここで取り引きをする。」


その迷いのなさを受けて、男の口元がゆっくりと歪み、次の瞬間には腹の底から絞り出すような笑い声が溢れ出した。


「ハハハハッ!!取り引き成立だな。」


乾いた笑いは部屋の中に広がり、煙草の煙と混じり合いながら、場の空気そのものを塗り替えていく。その余韻を残したまま、男はディアブロへと手を差し出した。


それは単なる握手ではなく、この場で交わされた約束と、これから先に続く関係の始まりを意味するものだった。


ディアブロもまたその意味を理解した上で、差し出された手を迷うことなく握り返す。


その瞬間、この場における取り引きは完全に成立した。


「取り引きは成立だ。俺の名前は林 清道だ。お前は春宮なんて言うんだ?」


「春宮 湊だ。」


「春宮 湊だな。これからよろしく頼む。」


林は満足げに頷くと、軽く指を鳴らし、その音だけで周囲に指示を飛ばす。


「おい、お前ら。春宮に適当な通帳とスマホを持ってこい。それと――女。」


その一言で、水瀬へと視線が集まる。


「お前の借金はこいつの一億から引いておく。これでお前は自由だ。もう二度と俺達のような金貸しを使うんじゃねーぞ。」


あまりにも淡々と告げられたその言葉は、軽く発せられたものとは裏腹に、水瀬の人生そのものを大きく変える重さを持っていた。


「‥‥えぇ、分かっているわ。」


絞り出すような声だった。顔は伏せられ、表情は見えないが、肩が小刻みに震えているのがはっきりと分かる。


必死に堪えていた感情が抑えきれず、押し殺した嗚咽がわずかに漏れ出し、長い間背負い続けていた重圧が、形を変えてようやく彼女の中から外れ落ちていく。


――だが、それは決して終わりではない。


借金という名の地獄から解放されたように見えても、その実態は相手が変わっただけに過ぎず、2000万という現実が消えたわけではない以上、むしろここからが水瀬にとって本当の意味での交渉の始まりだと言える。


新たな縛りの中で何を選び、どう生きていくのか――その答えはまだ何一つ定まっておらず、静かに、だが確実に彼女の未来へと繋がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ