第13話 水瀬 結奈。
私には5人の弟妹がいる。だが、私の家は決して裕福とは言えず、スマホは家族で共有の一台、服も兄弟で使い回し、新品を買えるのは年に一度あるかどうかという程度で、日々の生活費だけで精一杯の状態だった。
その原因は全て、あのクズが残していった借金にある。どれだけ働いても、どれだけ稼いでも、収入のほとんどは利息と元金の返済に消えていき、手元に残るものはほんのわずかでしかない。
だからこそ、私は家族に少しでも楽な生活を送らせるため、探索者になることを決意した。幸いにも私には、探索者の才とも呼べるほどの膨大な魔力があり、その力があれば必ず家族を養えると信じていた。
実際にその才能は国からも評価され、探索者育成学校の入学金は免除された。これであとは自分が努力しさえすれば、必ず探索者として生きていける――そう、本気で思っていた。
だが、現実はそんなに甘くはなかった。
確かに私の魔力量は他の生徒よりも圧倒的に多かったが、どれだけ魔法を放とうとも、その威力は驚くほど低く、まともに実戦で通用するものにはならなかった。
それでも私は諦めなかった。魔法が駄目なら別の道を、と考え、身体系の技術にも手を出したが、結果は変わらず、どれだけ鍛えようとも目に見える成果は得られなかった。
そして最終的に、私は“使えない人材”として判断され、Fクラスへと配属された。
こうなってしまえば、もう這い上がる術はない。一度Fクラスの烙印を押されれば、たとえ卒業できたとしても探索者として生きていく道はほぼ断たれる。それはこの学校に通う誰もが知っている、変えようのない現実だった。
探索者への道は完全に閉ざされた――それでも、私には立ち止まることなど許されない。私には守るべき家族がいるのだから。幼い弟や妹たちは、文句ひとつ言わず、ただ必死に日々を耐えている。
そんな姿を見てしまえば、長女である私が何とかしなければならないと、そう思わずにはいられなかった。
だから私は、毎日寝る時間すら削って勉強を続けている。たとえ探索者になれなくとも、人生の道が全て閉ざされたわけではない。まだ選べる道はある――そう信じて、前に進むしかない。
私は家族の為に‥‥必ず、何かを掴み取る。
◇
時計の針は既に0時を回っていた。明日も学校がある以上、本来ならとっくに眠っていなければならない時間だが、水瀬の手は止まることなくノートの上を走り続けている。
だが、その代償は確実に体へと現れていた。重く沈む瞼は何度も閉じかけ、視界はぼやけ、集中力も途切れかけている。それでもなお、無理やり意識を引き戻しながらペンを動かし続けていた、その時だった。
「ただいま~~」
疲れを滲ませた声が玄関から響く。
帰ってきたのは母で、朝から晩まで働き詰めの彼女は、毎日のように日付が変わる頃になってようやく帰宅する生活を続けていた。
「あ、お帰り‥‥お母さん。」
「結奈。まだ起きてたの?いつも言ってるでしょ、私のことは待たなくていいって。」
「たまたまだよ。それより、お風呂入ってきたら?今、ご飯の準備するから。」
言葉のやり取りだけを見れば、どちらが母親なのか分からなくなる。いや、実際にはこの家では“母親”が二人いるのだろう。長女である結奈と、実の母親が共に家族を支え合い、どうにかこの生活を回している。
どちらか一方でも倒れれば、この均衡は簡単に崩れる。それほどまでに、この家庭は綱渡りの上に成り立っていた。
それでも二人は止まらない。止まることなど出来ない。互いの原動力が、何よりも大切な“家族”である以上、その為に倒れるのならば、それすらも受け入れてしまう覚悟があった。
「‥‥ありがとうね、結奈。」
「その言葉は禁止。ほら、早くお風呂入ってきて。」
そうして、ようやく二人の一日が終わりへと向かっていくのだった。




