第136話 他の探索者。
無事にゴーレムを倒したディアブロたちは、その勢いを落とすことなくダンジョンの奥へと進み続けていた。
先ほどまで激しい戦闘が繰り広げられていたとは思えないほど一行の足取りは軽く、周囲への警戒を怠ることなく薄暗い通路を進んでいると、それまで一定の速度で先頭を歩いていたディアブロの足が突如として止まった。
何の前触れもなくディアブロが立ち止まったことで、後ろを歩いていた水瀬と雫も反射的に足を止め、ベガも僅かに姿勢を低くしながら周囲へ鋭い視線を巡らせる。
しかし、どれだけ警戒してもモンスターが近づいてくる気配は一切なく、物音一つ聞こえてこない静かな状況に疑問を抱いた雫が、ディアブロのすぐ隣まで歩み寄って声を掛けた。
「どうしたんだ?何で前に進まないんだ?」
その問い掛けにディアブロは何も答えず、僅かに目を細めながら通路の先をじぃーーと見続けている。
その視線につられるように雫と水瀬も同じ方向へ目を向けるが、薄暗い通路が奥へと伸びているだけで何も見当たらないし、耳を澄ませても足音や話し声らしきものは全く聞こえて来なかった。
雫たちの目には何も捉えられていないが、ディアブロはそうじゃない。
常人とは比較にならないほど広い範囲を捉えているその目には、遥か先を進んでいる複数の探索者たちの存在がハッキリと映っていたのだ。
そして、その探索者たちこそ、かつてこのダンジョンで発生したスタンピードを止める為に集められた精鋭パーティー『暁』であった。
もちろんディアブロは彼らが『暁』という名のパーティーであることも、その素性についても何一つ知らない。
しかし、遥か先にいるにもかかわらず一人一人が纏っている力の大きさまでは感じ取れており、少なくともこれまでダンジョン内で見てきた探索者たちとは明らかに格が違うことだけは理解出来ていた。
そのままディアブロは暫く無言で彼らの動きを観察し続け、雫たちも何か理由があるのだろうと余計な言葉を挟まずに待っていると、数分ほど経ったところでようやくディアブロが口を開いた。
「‥‥前に他の探索者がいる。」
そう言いながらディアブロが通路の奥へ指を向けると、雫は眉を寄せながらその方向へじぃーーと目を凝らす。
しかし、どれだけ集中しても遥か先にいる探索者たちの姿を捉えられるはずもなく、見えるのは薄暗い通路とその先を覆う闇だけだった。
「俺には全然見えないわ。」
雫には何も捉えることが出来なくても、ディアブロがそう言う以上、そこに誰かがいること自体を疑う必要はない。
そしてそれを理解している水瀬は前方を確認することを早々に諦めると、視線をディアブロへ戻し、この先どう動くつもりなのかを確認する。
「それでどうするの?ルートを変える?それとも進む?」
「‥‥‥‥」
水瀬の問い掛けを受けたディアブロはすぐには答えず、視認出来る領域をさらに広げながら周囲の構造を確認し、前方にいる探索者たちと接触せずに先へ進める別のルートがないかを探していく。
しかし、いくら探してもこの先へ進む為には彼らがいる場所を必ず通らなければならず、別の道を使って迂回するという選択肢そのものが存在していなかった。
かといって、彼らが先へ進んで完全に姿を消すまでこの場で待ち続ける余裕もない。今日の目的地は30層であり、ここで無駄に時間を使えば、それだけ今後の探索に使える時間が削られてしまう。
そう判断したディアブロは小さく息を吐くと、足元にいるベガへ視線を落とした。
「‥‥仕方ないな。ベガは俺の空間に戻れ。このまま真っ直ぐ進む。その間の戦いはベガの代わりに俺が入る。」
「ワン!!」
指示を受けたベガは迷う素振りすら見せず、その体をディアブロの影へと沈ませた。
その様子を見届けた雫と水瀬もディアブロの判断に異論はないようで、互いに一度だけ顔を見合わせてから頷く。
「じゃあ進むぞ。」
そう告げるとディアブロは再び歩き始め、水瀬と雫も少し遅れてその後を追っていく。
前方にいる探索者たちとの距離は少しずつ縮まり、それまで雫たちには何も感じ取れなかった通路の奥からも、やがて微かな人の気配が伝わり始める。
そして、それから数十分後――。
ダンジョンの奥深くへと進んでいたディアブロたちは、ついに例の探索者たち――精鋭パーティー『暁』と出会うのであった。




