第135話 トリプルコンボ。
「ベガ、雫!!あなたたちの攻撃に合わせるわ!!全力で行って!!」
「了解だ‥‥行くぜベガ!!」
「ワン!!」
水瀬の声を背中で受けた雫は、ふぅ~と肺に溜まった空気を吐き出すと同時に意識を研ぎ澄ませ、自らの内側に宿る蒼を一気に張り巡らせていく。
槍を握る指先から柄を伝うように蒼い力が溢れ出し、それは両腕から肩、胸、腹、そして両脚へと流れ込み、瞬く間に雫の全身を包み込んだ。
「蒼装」
全身に蒼を巡らせることで身体能力を引き上げるだけではなく、呼吸や魔力循環までも活性化させ、更には槍を扱う技術そのものまで高めることが出来る。
蒼の能力の中では最も基本となる技だ。
しかし、基本であるからこそ単純な強化に留まらず、肉体と魔力、そして武器の全てを一つに繋ぎ合わせることで、雫の持つ力を余すことなく戦闘へと反映させることが出来る。
蒼装を発動した雫は地面を強く蹴り、その瞬間に足元の小石が弾け飛ぶほどの勢いでゴーレムへと走り出した。
その速度は既に並の探索者が全力で走って追いつけるようなものではなく、普通であれば並走するどころか背中を追うことすら難しいはずだが、ベガと水瀬はいとも簡単にその速度へと合わせていく。
その直後、ふわっと雫の体が更に軽くなり、それと同時に体の奥底から次々と力が湧き上がって来るのを感じた。
後方から水瀬が白魔法による強化を重ねたのだとすぐに理解し、隣を駆けるベガにも同じ強化が施されたことで、ただでさえ速かった二人の速度は一段階どころか更に大きく跳ね上がった。
洞窟という足場も視界も悪い狭い空間にも関わらず、雫とベガの速度が緩むことはない。
むしろ二人は地面だけを走るのではなく、左右に突き出した岩や壁を足場にして次々と蹴り、その反動すら加速へと変えることで、洞窟の中を縦横無尽に駆け抜けていく。
当然、その速度で動き回る相手にゴーレムが攻撃を当てられるはずもなく、巨大な拳が振り下ろされた時には既に二人の姿はそこにはなかった。
ドカン!!ドカン!!と洞窟を揺らす轟音が連続して響き渡り、雫とベガが駆け抜けた場所へ少し遅れてゴーレムの拳が叩き込まれる。
岩の床が砕けて大量の破片と砂埃が舞い上がるものの、ゴーレムは二人の残像を追うことしか出来ず、その姿を正確に捉えることすら全く出来ていない。
そして、ベガと雫は次々と振るわれる巨大な腕を紙一重で掻い潜りながら一気に距離を詰め、ついには複数のゴーレムが密集する懐へと飛び込んだ。
正面には数体のゴーレムが互いの巨体を重ねるように一直線に連なっており、その体の奥では弱点である赤い球が鈍い光を放っている。
「合わせるぞ!!」
「ワン!!」
雫は走る勢いを殺すことなく槍を握り直すと、全身を覆っていた蒼装の力を一気に右腕へと集め、そのまま槍の先端へと凝縮させていく。
全身を覆っていた蒼が槍へと流れ込むにつれて刃の周囲に濃密な蒼い光が集まり、ベガも雫の意図を理解したように黒雷を迸らせると、その黒い雷を槍の刃へと重ねるように纏わせた。
蒼と黒雷が混ざり合うことなく一つの槍に重なり、穂先から漏れ出した力だけで周囲の空気が細かく震え始める。
雫はその槍を肩より後ろまで大きく引き絞り、一直線に並んだゴーレムと、その奥に見える赤い球へ狙いを定める。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
踏み込んだ右足が地面を砕いた瞬間、雫は全身の力を余すことなく腕へと伝え、蒼と黒雷を纏った槍を全力で投擲した。
放たれた槍は蒼と黒の軌跡を残しながら洞窟の空気を切り裂き、最前列にいたゴーレムが反応するよりも早く、その胸部に存在する赤い球へと突き刺さる。
硬い岩で覆われた巨体とは対照的に赤い球は一瞬で砕け散り、それでも槍の勢いはほとんど衰えることなくゴーレムの背中を突き破って、その後方にいた次のゴーレムへと迫った。
二体目のゴーレムは咄嗟に太い腕を盾にするように構えるが、蒼と黒雷を纏った槍を止めるにはあまりにも遅い。
分厚い岩の腕を正面から貫通した槍は、そのまま奥に存在する赤い球まで一息に穿ち、再び岩の巨体を突き抜けて更にその先へと進んでいく。
一体、また一体と、一直線に並んでいたゴーレムの巨体を槍が次々と貫通し、その度に赤い球が砕ける乾いた音と、力を失った巨体が地面へ崩れ落ちる轟音が洞窟の中で重なっていく。
しかし、残り一体となったところで、流石に何体ものゴーレムを貫いたことで槍の速度と威力が落ち始めた。
最後のゴーレムの体をどうにか貫き、その奥にある赤い球までは辿り着いたものの、槍の穂先が食い込んだところで勢いは完全に止まり、赤い球を破壊するまでには至らなかった。
だが、それを見た雫とベガが足を止めることはなく、二人はほぼ同時に地面を蹴って最後のゴーレムへと駆け出す。
「これで‥‥終わりだ!!」
雫はゴーレムの胸部に突き刺さったままの槍へ飛びつくと、その柄を両手で掴み、走って来た勢いと全身の力を乗せて一気に押し込んだ。
ミシッ!!と赤い球に亀裂が走り、その亀裂が瞬く間に全体へと広がった次の瞬間、赤い球は内側から弾けるように砕け散る。
それと同時に最後のゴーレムの巨体から力が抜け、岩同士を激しくぶつけながら地面へと崩れ落ち、雫とベガ、水瀬による最初の連携は、一直線に並んでいたゴーレムをまとめて撃破するという形で成功を収めるのだった。




