第130話 新しい担任。
教室に入るなり、それまで僅かに聞こえていた話し声が目に見えて小さくなり、教室に居た全員の視線が一斉にこちらへと向けられた。
まるで品定めでもするかのようにじぃーーと遠慮なく見て来る視線だったが、ディアブロと水瀬はそんな周囲の反応を全く気にすることなく教室の前まで歩いて行き、ホワイトボードの横に貼られている座席表を確認する。
そこには二人の名前も記されており、どうやらディアブロと水瀬の席は隣同士になっているようだった。
「隣同士だね。」
「そうだな。」
二人はそれだけの短い会話を済ませると、特に気にした様子もなくそれぞれ自分の席へと向かい、そのまま椅子を引いて腰を下ろした。
しかし、それでも二人へと向けられているクラスメイトたちの視線が減ることはなく、むしろ近くに座ったことで露骨に様子を窺う者まで居るほどだった。
もちろん、クラスの全員が二人をそこまで気にしているのには明確な理由がある。
それはFクラスから一気にCクラスへと上がって来た二人が、本当に自分たちのクラスで役に立つだけの実力を持っているのかを見定めをしていた。
この二人がCクラスに上がって来たことで、それまでクラス内で最も成績の悪かった者が押し出される形で降格となっており、もし新しく加わった二人が降格した者よりも弱ければ、それはCクラス全体から見れば明確な戦力ダウンしてしまう。
そしてそれはこれからクラス単位で行われる試験があった際に足を引っ張られれば、迷惑を被るのはクラス全員なのだ。
だからこそ、歓迎よりも先に警戒の目が向けられており、Fクラスから突然上がって来た二人が如何ほどの強さを持っているのか、誰もが自分の目で確かめようとしていた。
そんな妙にピリピリとした空気が教室を包んだまま時間は過ぎていき、やがて朝のホームルームを知らせる鐘が校内に鳴り響くと、それに合わせるかのようなタイミングで教室の扉が勢いよく開いた。
「みんなおはようーー!!!」
教室に入って来るなり響いたのは、朝の眠気など一瞬で吹き飛ばしてしまいそうなほど明るく大きな女性の声であり、それまで教室内に漂っていた張り詰めた空気が僅かに緩む。
どうやらCクラスの担任はFクラスの担任とは随分と違う人間らしく、少なくとも全くやる気がないわけでもなければ、生徒たちをゴミでも見るかのような冷めた目で眺めることもない。
むしろ教室に入って来た時から表情には明るい笑みが浮かんでおり、そんな担任へと向けられるクラスメイトたちの視線にも警戒や嫌悪はなく、普段から信頼されていることが見て取れた。
「こうして今年もCクラスの担任を続けられることが‥‥とっっても嬉しいです!!それに、新しいクラスメイトも加わってくれたこともうれしいです!!なので、知っている人が多いとは思いますが、改めて自己紹介をさせてもらいます!!」
そう言って担任はホワイトボードの前まで歩いて行くと、置かれていたマーカーを手に取り、迷いのない大きな文字で『岩倉 真菜』と自分の名前を書いてから、改めて教室に居る生徒たちへと振り返った。
「初めまして、皆さんの担任をさせてもらう『岩倉 真菜』です。担当は現代文で、実技では魔法を教えますので、これからよろしくお願いします!!」
明るい声と共に全員へ向けた挨拶を済ませる岩倉に対し、いつものディアブロであれば特に興味を示すこともなく、そのまま適当に聞き流していたはずだった。
しかし今回は何故か少しだけ興味が湧いたのか、ディアブロは何気なく岩倉へと視線を向けると、その目を使って担任の持つ才能を確認した。
すると、ディアブロの目に映った才能の色は赤色だった。
赤色という結果に加えて、本人が魔法を得意としていると口にした以上、ディアブロは自然と『炎』系統の魔法を得意としているのだろうと考える。
だが、そんなディアブロの予想を知るはずもない岩倉は、ホワイトボードの前で笑顔を浮かべたまま、続けて自分の得意とする魔法について口を開いた。
「ちなみに、私の魔法属性は――雷です。」
その言葉を聞いた瞬間、ディアブロは僅かに目を細める。
自分の目に映った才能の色から予想したものとは全く異なる属性を、岩倉は何でもないことのように口にするのであった。




