第128話 解決。
その場に残された水瀬と雫は、何を話せばいいのか分からないまま、互いに少し距離を空けて黙り込んでいた。
互いに話さなければならないことは分かっているのに、いざ二人きりになると最初の一言が出てこない。
そんな重苦しい空気を先に壊したのは、水瀬だった。
「‥‥まぁ、座ろっか。」
何気ない一言だったが、それだけで張り詰めていた空気が僅かに緩み、二人はその場に腰を下ろした。水瀬がきっかけを作ってくれたことで、今度は自分が話す番だと感じたのか、雫は僅かに視線を落としてから重い口を開いた。
「‥‥その、悪かった。別に‥‥俺は、その水瀬さんが嫌いとかじゃない。」
「‥‥うん、それは理解してる。私も同じだから。ディアのこのパーティーに雫ちゃんが入ってくれて、本当に嬉しいって心から思ってる。私も雫ちゃんと同じって言ったら失礼かもだけど‥‥自分の才能の無さで大変だったからさぁ。」
水瀬の言葉を聞いた雫は、少し驚いたように顔を上げる。
今の水瀬だけを見れば、自分と同じように才能の無さに苦しんでいたとは思えないほど、その力は優れている。だが、以前にも似たような話を聞いたことを思い出し、雫は純粋な疑問を口にした。
「‥‥初めて会った時にもそんなことを言っていたな。その、水瀬さんはどうやって救ってもらったんだ?俺と同じで、急に才能があるって言われたのか?」
「うーーーん、ちょっと違うかな。」
「もし話せるなら‥‥教えてくれないか?」
「‥‥少し長くなるけどいいの?」
「全然いい。俺は素直に知りたい。今日までに一体何があったのかを。」
その言葉に嘘がないことはディアブロの魔法が無くても分かる。雫が本当に自分のことを知ろうとしてくれていることがハッキリと伝わっていた。
「そうだね。じゃあ、まずは私の家族についてから話そうかな。」
そこから二人は時間が経つのも忘れ、これまで互いに知ろうとしなかったことを一つずつ語り合っていった。
水瀬は自分の家族のことや、才能の無さに苦しんでいた頃のこと、そしてディアブロと出会ってから今日に至るまでの出来事を話した。
雫もまた、自分がどのような環境で育ち、才能がないと言われ続ける中で何を感じていたのか、そして力を手にした今だからこそ抱えている思いを包み隠さず水瀬へと伝えていく。
そうして言葉を交わしていくうちに、二人の間にあった見えない壁は少しずつ薄れていった。
結局のところ、二人に足りなかったものは会話だった。
会話をすれば相手を知ることが出来るし、自分が何を考えているのかも相手に伝えられる。逆に言えば、どれだけ近くにいたとしても言葉を交わさなければ、本当の意味で相手のことを知ることなど出来ない。
水瀬と雫は互いに相手の力や才能ばかりに目を向け、その力を持つ本人が何を経験し、何を思って生きてきたのかを見ようとしていなかった。相手の一部分だけを見て勝手に想像し、そこから生まれた小さな感情のズレが積み重なった結果、今回の仲違いへと繋がってしまったのだ。
だが、その仲違いもディアブロの魔法によって半ば強制的ではあるものの、互いの本心を曝け出すことで修復することが出来た。
それだけではなく、二人はこれまで知らなかった相手の一面を知り、真正面から向き合うための場所と機会まで得ることが出来たのだから、後は互いにもう一歩踏み出す勇気さえあれば十分だった。
そして、その様子を少し離れた場所から見守っている者がいた。
『どうやら上手く行ったみたいだな。お前もこれで満足か?』
腕の中に抱きかかえているベガへディアブロがそう尋ねると、ベガは二人の様子を眺めながら小さく「ワンッ」と鳴いた。その尻尾は嬉しそうに揺れており、どこか満足そうな表情を浮かべている。
『まったく‥‥人間というものは面倒な生き物だな。言葉を持っているというのに、それを使わず勝手に相手を決めつけ、勝手に悩み、勝手にすれ違う。』
そう口にしながらも、ディアブロの視線は穏やかだった。
少し前までのディアブロであれば、二人が仲違いをしていたところで戦闘に支障さえ出なければ放っておいただろうが今は違う。ベガに気づかされたとはいえ、自ら二人の間に入り、その関係を修復するために動いたという事実そのものが、ディアブロにも確かな変化が生まれている証拠だった。
この出来事によって水瀬と雫の間にあったわだかまりは消え、それまで埋められなかった距離も一気に縮まった。互いの弱さも過去も知った二人の仲は、この先、親友とも呼べるほど深いものへと変わっていくことになる。
そしてディアブロもまた、人間という存在を一つ理解し、人間として僅かながら成長することとなった。
こうして、それぞれに変化をもたらしたテスト休みの連休は終わりを迎える。
明日からは、再び新学期が始まるのであった。




