第123話 記憶の受け渡し。
翌日、ディアブロたちは雫を正式にパーティーへ加入させるため、ギルドへと足を運んでいた。
「じゃあ、これで雫ちゃんのパーティー申請は完了だが、本当に良かったのか‥‥パーティーに入れて。」
必要な手続きを済ませ、無事にメンバー追加の申請が受理されたところまでは何の問題もなかったのだが、林は手続きが終わった後もどこか落ち着かない様子で、その場を離れようとするディアブロを呼び止めていた。
「問題ない。必要だから入れたまでだ。それに、お前も嬉しいんじゃないのか?姪を引き取ってくれる場所を探していただろ?学校にも居場所がないって言っていただろ?」
「まぁ、そうなんだが‥‥それがお前のパーティーとなれば別の心配が生まれるわい?本当に、大丈夫なんだよな?無茶な事はさせないよな?」
林にとって雫が自分の居場所を見つけられたこと自体は喜ばしい。
学校では周囲に馴染めず、本人も居場所がないと感じていたことを知っているだけに、信頼できる仲間ができるのであれば叔父としてこれ以上のことはないだろう。
しかし、その相手がディアブロとなれば話は別だった。実力も人柄も十分に理解しているからこそ、その常識外れな部分まで知っている林としては、どうしても素直に喜ぶだけではいられない。
「あぁ、分かっている。無茶なことはさせるつもりは一切ない。」
「本当に本当だろうな?」
念を押すように林が身を乗り出し、疑うような視線を向けてくる。
ここまで来ると心配性という言葉だけでは片付けられないほどだったが、姪を大切に思っているからこその態度なのだろう。それでも同じ確認を何度も繰り返されれば、流石のディアブロも付き合ってはいられない。
最後の問いかけだけは完全に無視すると、踵を返して少し離れた場所で待っていた二人の元へと戻っていった。
「申請は上手く行ったの?何か、言われたんじゃない?」
戻って来たディアブロを見て、水瀬が林の様子を窺うように視線を向ける。遠目からでも随分と長く話し込んでいたことは分かっていたらしく、何か問題でもあったのかと気になっていたようだ。
「まぁ――色々と言われたが、申請は上手く行った。じゃあ、予定通りこの後は昨日説明した通りに行くが問題ないな?」
「私は問題ないっていうか、私は見てるだけになると思うから、後は雫ちゃんの覚悟が出来ているならだね。」
そう言って水瀬が隣へと顔を向けると、その視線を受けた雫は一度だけ小さく息を吸った。
これから自分の身に何が起こるのか、その全てを理解しているわけではない。それでも昨日のうちにディアブロから説明を受け、自分なりに考えた上でここに立っている以上、今さら迷うつもりなどなかった。
雫はコクンと力強く頷く。
「大丈夫。俺の覚悟は決まった。」
その言葉に迷いがないことを確認すると、ディアブロもそれ以上は何も聞かなかった。
「‥‥そうか。なら、行くか。」
三人はそのままギルドを後にすると、人目につかない場所まで移動し、ディアブロの力によってその場から姿を消す。
一瞬にして景色が切り替わり、次に雫が目を開いた時には、既に見慣れ始めていたディアブロの部屋へと戻って来ていた。
「さてと、じゃあ始めるぞ。準備はいいな?」
その言葉を聞いた瞬間、雫の表情に僅かな緊張が走った。
昨日、自分の中で覚悟を決めたとはいえ、これからディアブロが行おうとしていることが普通ではないことくらいは理解している。それでも逃げるという選択肢は最初からなく、雫は緊張を押し殺すように一度唾を飲み込むと、意を決して右手を差し出した。
「‥‥おぅ。いつでも来い!!」
だが、ディアブロは差し出されたその手を握らなかった。
雫が僅かに首を傾げた次の瞬間、ディアブロはその頭の前へと片手を翳す。
「え?」
疑問の声を漏らす暇さえ与えず、ディアブロはそのまま力に関する膨大な記憶を雫の意識へと直接流し込んだ。
その瞬間――雫の身体が大きく跳ねた。
「あ”っ、あああああ!!!!」
頭の中へ一度に流れ込んで来た膨大な情報を処理しきれず、雫の目が大きく見開かれる。何かを考える余裕すらなく、理解するよりも先に次から次へと記憶が押し寄せ、脳そのものを内側から掻き回されているかのような感覚に襲われていた。
喉の奥から声にならない叫びが漏れ、全身から一気に力が抜ける。
そして数秒と耐えることも出来ず、雫は口元から泡を吹くと、そのまま糸が切れた人形のように意識を失った。
倒れかけた身体をディアブロが支える中、その一部始終を傍で見ていた水瀬は驚くどころか、どこか予想していたかのように小さく息を吐いた。
「あーあー、やっぱりこうなっちゃうよね。雫ちゃんをベッドに運んでくるね。」
「あぁ、頼んだ。」
ディアブロから雫の身体を受け取ると、水瀬は慣れた手つきでその身体を抱え上げる。
これから何が起こるのかを事前に聞かされていたからこそ、水瀬の動きに焦りはない。そのまま気を失った雫を休ませるため、予定通りと言わんばかりにベッドへと運んでいくのであった。




