第122話 力の育て方。
「じゃあ、俺は‥‥これからどうしたらいいんだ?何かやった方がいいのか?」
正式に仲間へ加わることを決めた雫は、これから自分が何をすればいいのか分からず、少し身を乗り出しながらディアブロへ次の予定について尋ねた。
「ない。お前の成長については既に俺に考えがあるから、お前は俺の言う通りにしていればいい。」
「おう、それは分かってるけどよぉ‥‥具体的には教えてくれないのか?」
雫が聞きたいのは、そういうことではない。ディアブロに従うこと自体に異論があるわけではなく、これからどんな訓練を行い、どうやって自分の力を伸ばしていくのか、その具体的な予定を知りたいだけなのだが、ディアブロにはその意図がいまいち伝わっていないらしい。
すると、二人のやり取りを横で聞いていた水瀬が呆れたように小さく息を吐き、困っている雫を助けるように口を挟んで来た。
「ディアにそういう事を聞いても無駄だよ。私の時も何も教えてくれなかったし、今も、その場でしか教えてくれないから。雫ちゃんも、心の準備はしておいた方がいいよ。」
「な、なるほど。」
何故か水瀬の言葉には妙な説得力があり雫は一度大きく頷き、まるで今後の自分の扱われ方まで理解したかのような顔を浮かべる。
「お前‥‥うるさいぞ。俺は説明をしないんじゃない。する必要がないだけだ。」
「それはディアだけね。私は普通に説明して欲しいって思ってる。あ、ちなみに雫ちゃんもそうだと思うよ。」
「‥‥そうなのか?」
ディアブロが確かめるように視線を向けると、雫は僅かに考える素振りを見せたものの、すぐに首を縦に振った。
「まぁ、そうだな。自分がこれから何をするのかぐらいは知っておきたいな。」
「ね?知りたいでしょ?ほら、どうするの?教えてあげないの?」
水瀬は勝ち誇ったような笑みを浮かべながらディアブロへ詰め寄る。
完全に二対一となった以上、ここまで言われて無視を決め込むことも出来ず、ディアブロは面倒そうに息を吐いてから、この先に行う予定について説明することにした。
「まずは、自分の才能に見合うだけの器を作ってもらうつもりだ。」
「器?それは筋トレや体力を付けて鍛えるってこと?」
雫は自分の腕へ視線を落としながら、拳を握って軽く力を込める。
力を使いこなすための器と聞けば、真っ先に思い浮かぶのは肉体を鍛えることであり、今よりも身体を強くすることだと考えたようだ。
「半分正解で半分不正解だな。肉体を鍛えることが全くの無意味だとは言わないが、それだけではほとんど意味がない。何故なら、いくら肉体を鍛えたところで”蒼”そのものには影響しないからだ。」
「なら、どうするんだ?俺の力をどうやって成長させるんだ?」
自分の想像していた方法をあっさり否定された雫は眉を寄せるが、それならば他にどんな方法があるのかと、すぐにディアブロへ問い返した。
「簡単なことだ。同じ力を持っている奴から力の使い方を知ればいいだけだ。」
「あー、なるほどね。」
その言葉を聞いた瞬間、水瀬だけはディアブロが何をしようとしているのか理解したらしく、過去の記憶を思い出すように何度か頷いた。
そう、かつて水瀬もディアブロから白魔法についての膨大な知識と記憶を直接受け取ったように、雫にも同じ方法で”蒼”についての記憶と知識を渡すつもりなのだ。
それは何も知らない状態から手探りで力の使い方を探す必要がなくなり、既にその力を扱った者の経験そのものを土台に出来るという意味では、これ以上ないほど効率的な方法だった。
しかし、その方法が決して楽なものではないことを、水瀬は身をもって知っている。
あの時に味わった痛みとも苦しさとも言い切れない感覚は、今でも簡単に忘れられるものではなく、それを今度は雫も経験するのだと思うと、素直に勧める気にはなれなかった。
それでも、今の自分が白魔法をここまで扱えるようになったのは、あの苦痛に耐えて知識と記憶を受け取ったからこそであり、その効果を知っている以上、止めることも出来なかった。
「つまり、俺が持っている力の使い方や成長の仕方を、記憶から教えてもらうってことであってるか?」
「それであっている。だが、当然デメリットもある。その記憶の譲渡には、かなりの苦痛が伴うってことだ。前に同じことを水瀬にもしたが、普通に気絶した。」
「‥‥それは‥‥なかなかだな。」
雫の表情から先ほどまでの軽さが消え、僅かに頬が引きつる。隣にいる水瀬へ確認するように視線を向けると、水瀬は否定するどころか、思い出したくもないと言わんばかりの顔で静かに頷いていた。
「まぁ、今すぐにやるわけじゃない。今やったら、目覚めるのは明日の朝になりかねないからな。そうなったら、お前の叔父に俺が殺されるからな。」
「それは、そうなると思う。」
叔父である林の性格を誰よりも知っている雫だからこそ、その光景が簡単に想像出来てしまったのだろう。冗談として笑うこともなく、真顔のままディアブロの言葉を肯定した。
「だから、今日はこれで終わりだ。また明日の朝からギルドに迎えに行くが、それでいいか?」
「おう、それでいい。」
「じゃあ、今日は解散だ。」
ディアブロがそう告げたことで話はまとまり、雫を新たな仲間として迎え入れるための一連の話し合いも終わりを迎えた。
こうして、少々騒がしくはあったものの、新たな仲間を迎える参入式は何事もなく無事に終わるのであった。




