第120話 3人目。
「うぐっ‥‥ここ何処?」
雫が連れて来られた場所は、光も闇も判別できない、ただただ黒一色に染め上げられた空間だった。
地面も天井も存在しているのか分からず、平衡感覚は完全に狂わされ、耳を澄ませても自分の呼吸以外の音は何一つ聞こえない。
自分が本当に立っているのか、それとも宙に浮いているのかさえ判断できず、その異常な感覚に身体は本能的な拒絶反応を示し、胸の奥から込み上げる吐き気に思わず顔を歪めた。
「我の力を疑っているんだろ?だったら、見せてやろうと思ってな。我の力って奴を」
ディアブロが静かにそう告げると、封じ込めていた力を一切の躊躇なく解き放つ。
その瞬間、赤黒く染まった瞳が妖しく輝き、全身から溢れ出した漆黒のオーラは濁流のような勢いで四方八方へと広がり、瞬く間に空間そのものを飲み込んでいった。
それは単なる威圧ではない。
まるで、この世界そのものがディアブロという存在に支配され、その意思一つで形を変える領域へと変貌したかのような圧倒的な支配力が広がり、その中心に立たされている雫は、全身へ降り注ぐ重圧に抗うことなど到底できず、膝が震え、呼吸は乱れ、やがて限界を迎えると、その場へ膝をついてしまう。
「分かったか?これが我の力の一部だ。お前のような人間が我の力を疑うなど‥‥あってはならない。」
「‥‥お前は一体何者なんだ?こんな力を持っているなんて‥‥おかしいだろ」
圧倒的な恐怖を肌で感じながらも、雫は震える声を必死に絞り出す。その問いに対し、ディアブロは口元をわずかに吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「我が何者か。まぁ、それを知ってしまったら、もう後には引けないぞ?」
「はぁ‥‥それは、どういうこと?何が引けなくなるって言うんだ」
「どういうこともないな。我の正体が知りたいんだろ?それを知ってしまったら逃げられなくなるということだ。お前は我の駒になるだけだ」
「‥‥駒?それって仲間になるってことか?」
「まぁ、そうだな。お前らの視点で言うならそういう意味になるな。でも、我から見ればそうじゃない。我にとっての仲間とは駒であり、我の理想を体現する為の存在だ」
その言葉には冷酷さがあった。しかし同時に、一切の偽りも迷いもない絶対的な信念が宿っており、雫は思わず息を呑む。
「じゃあ、あの‥‥水瀬さんもそうだって言うのか?」
「そうだ。その事実は向こうも知っている。それでも水瀬が我の傍にいるのは、それだけ互いに得るものがあるからだ。利用するだけの関係なら、とっくに離れている。さぁ、どうする? お前は俺の正体を知りたいか?」
雫はすぐには答えられなかった。
恐怖はある。この男の正体を知れば、自分の人生が二度と元には戻らないことも本能が理解していた。それでも胸の奥では、それ以上に強く燃え上がる感情があった。
「‥‥それは‥‥一つ聞きたい‥‥俺は、あんたの仲間になれば‥‥もっと強くなれるのか?」
震える声だった。しかし、その瞳だけは真っ直ぐにディアブロを見据えている。
「ふふ。あぁ、間違いなく100倍強くなれる」
その一言には、一切の誇張も迷いもなかった。
「そう‥‥なら、俺は‥‥あんたの仲間になる」
迷いを振り払うようにそう言い切った雫の表情を見たディアブロは、満足そうに小さく頷く。そして再び指を鳴らすと、乾いた音が静寂に響き渡り、黒一色だった世界がゆっくりと色を取り戻していく。
次の瞬間、雫の視界に映し出されたのは――かつてディアブロが"覇王"と呼ばれ、世界の頂点へ君臨していた時代の光景だった。




