第118話 もしかして雫って。
「う"っ‥‥ここは。」
しばらく水瀬と今後について話していると、ベッドに横たわっていた雫の瞼がゆっくりと震え、苦しげな呻き声と共に意識を取り戻した。
「ここは春宮の家ですよ。あなたはダンジョンで気絶したけど、体は大丈夫?痛いところとかない?」
そう水瀬が優しく問い掛けると、雫は上半身を起こそうと腕に力を込めると、途端に「う"っ」と息を詰まらせるような声を漏らし、胸を押さえて顔を歪める。
心臓を鷲掴みにされるような鈍い痛みに襲われたのか、その額にはじわりと脂汗が滲んでいた。
「大丈夫?ねぇ、やっぱり先に病院へ行った方がいいんじゃないの?」
水瀬は慌てて肩へ手を添えたが、それを制するようにディアブロが静かに口を開く。
「いや、ダメだ。今の状態で調べられれば色々と面倒なことになる。それに、その胸の苦しみはじきに収まる。今は苦しいかもしれないが耐えろ。」
あまりにも突き放した言葉だったが、その声音には迷いがない。
水瀬も納得はできない様子で唇を噛んだものの、反論する代わりに白魔法を発動させ、柔らかな白い光で雫の身体を包み込みながら強化を施した。
「ごめんね。今の私にはこれぐらいしか出来ないの。でも、少しは楽になると思うから。」
淡い光が全身へ浸透していくにつれ、乱れていた呼吸は徐々に落ち着きを取り戻し、激しく打っていた鼓動も少しずつ穏やかになっていく。
「どうだ?痛みはマシになったか?」
「‥‥おぅ、ありがとう。普通に呼吸ができる程度には落ち着いた。それで聞かせてくれ。何で俺を連れてきた?俺は満足に結果を出せなかっただろ?」
「んぁ?結果?あぁ‥‥あれか!!あれはもう忘れろ。既に終わったことだ。」
「はぁ?忘れられるわけないだろ!!俺にとって最後のチャンスだったんだ!!」
雫は食って掛かるように声を荒げ、悔しさを隠そうともせず拳を強く握り締める。その拳は小刻みに震え、唇も噛み締められていた。
「最後のチャンス?何か勘違いをしてないか?」
「‥‥勘違いだと?俺は、お前が求めるレベルに足りなかったんだろ?試験は不合格だったんだろ!!」
なるほど。どうやら俺が最後に掛けた言葉を覚えていないようだな。だからこそ、自分は試験に落ちたのだと思い込み一人で勝手に絶望しているという訳か。
‥‥はぁ、本当に人間という生き物は面倒だな。
「水瀬。お前から説明しろ。ここまでの経緯も含めて、諸々全部な。」
「ちょ!!ディア!!面倒臭がらないで!!あーーもう、無視ですか。はいはい、分かりました。じゃあ私から説明するね、雫ちゃん。」
そう言って頬を膨らませた水瀬は、既に口を閉ざして完全に他人任せを決め込んだディアブロを軽く睨みつけると、苦笑を浮かべながら雫へこれまでの経緯を一つひとつ説明し始めた。
‥‥数分後。
「なるほど‥‥つまり‥‥俺は‥‥俺は!!力を覚醒させたってことだなぁ!!!!」
水瀬から話を聞いた雫は勢いよくベッドから飛び起きると、部屋中に響き渡るほどの大声で叫んだ。
そのあまりにも豪快な反応にディアブロは呆気に取られ、水瀬は慌てて両手で口を押さえながら目を白黒させると、おずおずとディアブロへ顔を寄せ、小声で耳打ちした。
「ねぇ‥‥もしかして、雫ちゃんってさぁ‥‥中二病じゃないよね!?」
そう尋ねられたディアブロは、不思議そうに首を傾げる。
「何だ?そのチュウニビョウって?食い物か?」
「‥‥はぁ、もうヤダ‥‥このパーティー。」
ディアブロの返答に水瀬は力なく肩を落とし、そのまま頭を抱えるのであった。




