第113話 5日ぶりの再会。
雫の年齢を主人公たちと同じ年齢に設定していましたが、変更します。
16歳→13歳の中2にします。それに伴って学校についても色々と変更点があるので、状況整理の為にも、どこかで登場人物が分かる話を設けます。
では、本編をどうぞ。
「うーーーん!! 帰って来た!!」
東京へ戻ってくるなり、水瀬は両腕を大きく天へ伸ばし、そのまま背中を反らせるように背伸びをすると、凝り固まっていた体をゆっくりとほぐしていく。関節が小さく鳴るほど思い切り伸びを終えると、どこか肩の荷が下りたような晴れやかな表情を浮かべた。
滞在日数はたかだか二、三日程度だった。それでも、今まで一度も足を踏み入れたことのない土地へ向かい、知らない景色や文化、人との距離感の違いに触れるだけで、人は思っている以上に神経を使うものだ。
まして水瀬は、生まれてから一度も旅行というものを経験したことがない。家と学校を往復するだけだった彼女にとって、今回の遠征はダンジョン攻略だけではなく、人生で初めての旅そのものでもあった。
「自分が暮らしている場所以外に行くのはどうだった? 楽しかったか?」
ディアブロが何気なく問い掛けると、水瀬は少しだけ考える素振りを見せた後、迷いのない笑顔を浮かべる。
「そうだね。初めはいろいろと困惑したこともあったし、あまりの場違い感に嫌な気持ちにもなったけど‥‥最高だった!!」
その笑顔には嘘も遠慮もない。心の底から今回の旅を楽しめたことが、その表情だけで十分に伝わってきた。
「そうか。まぁ、お前を楽しませる目的で行ったわけではなかったが、楽しめたのなら良かった。」
そう言って、ディアブロはほんの少しだけ口元を緩める。
その笑みはほんの一瞬で、本人ですら意識していないほど小さなものだった。ディアブロは普段ほとんど笑わない。それは今だからではなく、生前から変わらない。
覇王として生きた彼の日常は戦いそのものであり、周囲には敵しか存在しなかった。弱みを見せれば命を狙われ、感情を表に出せば付け入る隙となる。そんな世界で生き続けた結果、人前で笑うことも、喜怒哀楽を素直に見せることも、いつしか当たり前のようになくなっていた。
だからこそ――その一瞬だけ見せた柔らかな笑顔は、水瀬の胸をじんわりと温めていく。
‥‥ディアが笑った。初めて笑ったところ見た。
胸の奥から込み上げてくる嬉しさに、自然と頬が緩みそうになる。そして、その感情は次から次へと溢れてくるのに、水瀬はあえて口にはしなかった。
きっと言葉にしてしまえば、この空気は変わってしまう。だから何事もなかったように、いつもと変わらない距離感で問い掛ける。
「で、今からどうするの?」
何気ない一言だったが、それでいいのだ。ディアブロが知りたいと思っている人間の大切な部分とは、英雄譚のような特別な出来事ではない。
今日あったことを話し、他愛ない会話を交わし、当たり前の時間を積み重ねる、そんな何気ない日常の中にこそ、人という存在の本質がある。
だから今は‥‥この言葉で、この接し方でいい。
ディアブロもまた、その想いを理解しているかのように普段と変わらぬ口調で頷くと、この後の予定について静かに話し始めるのであった。
◇
「おーー!!待っておったぞ‥‥二人共!!」
ギルドへ戻るなり、大きく手を振りながら出迎えてきたのは林叔父だった。
「‥‥待っていたのか?」
「まぁーーの。今日は、大切な日だからな!!」
満面の笑みを浮かべる林からは、いつも感じていた威圧感がまるで消え失せていた。
今の彼の姿は百戦錬磨のギルド代表でも闇金の社長でもなく牙を抜かれた獅子は、姪のことしか頭にない、ただの身内思いの叔父そのものだ。
本当に姪のことになると、普段は頼れる男が一瞬でただのバカになるな。まぁ、それだけ姪を大切に思っているのだろうが、ここまで来ると少しは自重してもいい気がする、今度、本気で性格でも矯正させるか?
そんなことを考えていると、ギルドの自動扉が静かに開いた。
姿を現したのは林雫。
彼女は叔父の存在など最初から視界に入っていないかのように一瞥すらせず、そのまま真っ直ぐディアブロの前まで歩み寄って来た。
叔父は両手を広げたまま固まり、その背中からは目に見えそうなほどの落胆が漂っていたが、雫はそんなことなど一切気にしていない。
そして、ディアブロの目を真っ直ぐ見据え、迷いなく口を開く。
「ちゃんと怪我は治したぞ!!俺をダンジョンに連れて行ってくれよ!!」
見た目だけなら、誰が見ても清楚なお嬢さま。しかし口を開けば乱暴で豪快、そのギャップこそが林雫という少女だった。
そんな彼女を理解しているディアブロも、水瀬も、今さら驚くことはない。だからディアブロもまた、その真っ直ぐな瞳を見返しながら静かに答える。
「‥‥あぁ、分かってる。その為に、戻って来たんだ。」
その一言を聞いた雫は、待ち望んでいた約束がようやく果たされることを確信し、小さく口角を上げるのであった。




