第112話 千葉の用事は全て終わる。
オークションは最後まで熱気に包まれたまま幕を閉じた。
司会者の巧みな煽りに応えるように会場では何度も歓声と拍手が沸き起こり、高額落札が続くたびに興奮は最高潮へと達していたが、結局、最後までディアブロを納得させられるような品が壇上へ運ばれることはなかった。
この数時間は、ディアブロにとって何一つ得るもののない無駄な時間になってしまうかと思われたが、それではなかった。
求めていた出品物と巡り会うことは出来なかったものの、その一方で水瀬をまた一つ成長させることが出来たという確かな収穫もあり、その成果だけでも十分にこの場へ足を運んだ価値はあった。
そうしてホテルへと戻った二人は、超一流シェフが目の前で腕を振るう最高級のフルコースを堪能することになるのだが、その食事の席でも水瀬には目に見えて分かるほどの変化が表れていた。
このホテルへ来た当初の水瀬は、自分には到底似合わない場所だと勝手に壁を作り、高級という言葉だけで必要以上に相手を大きく見せてしまっていた。
しかし、本質を見抜く力を身に付けた今では、以前なら「高い」という印象しか抱けなかった料理や調度品の一つ一つを"適正価格"として冷静に判断出来るようになり、豪華な空間に飲まれることもなく、落ち着いた様子で料理の味や雰囲気そのものを楽しめるまでになっていた。
「明日は何時に出発するの?雫ちゃんとのやつも明日だったよね?」
「あぁ、そうだな。林とも連絡は取っているが、昼過ぎぐらいには始める予定だからな。それまでに朝の準備運動も兼ねて千葉のダンジョンで軽く体を動かして、その後に東京へ戻るつもりだ」
「じゃあ、もしかして朝のバイキングは食べられない!?」
朝からダンジョンへ向かうと聞いた瞬間、水瀬の頭に真っ先に浮かんだのは探索ではなくホテル自慢の朝食だった。目を丸くしながら肩を落とし、この豪華な朝食を食べ損ねるのではないかという不安を隠しきれない様子を見せる。
そんな水瀬の反応に、ディアブロは呆れ半分で小さく肩を竦めた。
「いや、全然食べられるぞ。あくまでもダンジョンは準備運動程度だから、一時間ほどで切り上げるつもりだ。そこからホテルに戻って朝食を食べればいい」
「そうね!! そうしよう!!」
先ほどまでの落ち込みが嘘だったかのように、水瀬の表情は一瞬で明るさを取り戻す。その切り替えの早さにディアブロも苦笑しながら、翌日の大まかな行動予定を二人で確認し合い、食事を終える頃には準備もほぼ整っていた。
やがてホテルの窓の外には静かな夜景が広がり、都会の灯りが煌めく中、二人は翌日の帰宅日に備えてそれぞれ部屋へと戻っていくのであった。
◇
ディアブロたちが千葉でそれぞれの予定をこなしている頃、その東京でもまた様々な出来事が起こっていた。
まず、ディアブロたちが出発した直後から始まっていたダンジョン調査についてだが、調査そのものは大きな問題もなく終了し、ダンジョンも予定通り一般探索者へと再び解放された。
しかし、その調査結果を受けたことで、ギルドマスターの中では綾小路が提唱していた"魔獣"という存在の信憑性が日に日に増しており、執務室では顎に手を当てて考え込む姿が以前にも増して目立つようになっていた。
そして、ディアブロたちと共に探索へ向かう予定となっている雫も、ついに万全の状態まで回復を果たしていた。
包帯はすべて外れ、何度も拳を握ったり開いたり、腕を大きく回してみても痛みは一切ない。傷口が完全に塞がっていることを確認した医者からもダンジョンへの復帰許可が下りたことで、雫はすぐに叔父へそのことを報告し、ようやく再びダンジョンへ潜れる日が訪れたことに胸を高鳴らせながら、その時を今か今かと待ち望んでいた。
そうして、それぞれが次なる戦いへの準備を整える中、ディアブロたちは千葉での用事を終え、再び東京へと戻ってくるのであった。




