第111話 見抜かれる本質。
「さぁ!!さぁ!!今宵の祭りも、残り僅かです!!次の商品は、我が商会が今宵の祭りで一番と呼べる逸品ですよ!!」
司会者は興奮を隠そうともせず、大きく両手を広げて会場中の視線を集めると、期待を煽るように二度、パンパンと手を叩いた。その合図と同時に、黒い布で厳重に覆われた台車が、静まり返った会場の中央へとゆっくり運ばれてくる。
「さぁ!!次にご紹介するのは‥‥何と、古より語り継がれる伝説です!!ご覧あれ!!」
高らかな声と共に布が勢いよく捲られると、その下から姿を現したのは、分厚い白い保護ケースに厳重に収められた、一つの巨大な”卵”だった。
照明を浴びた卵は淡い光沢を放ち、その存在だけで会場の空気を一変させる。観客席からは驚きとざわめきが一斉に広がり、誰もが食い入るようにその正体不明の卵へ視線を注いでいた。
「そう!!これはかつて地球に生存していたと言われる――伝説の"魔獣の卵"です!!
この卵は、アメリカのダンジョンで確保されました!!今までダンジョンで卵が発見されたという事例は一度たりともありません。そこで何人もの研究者が、この卵について徹底的に調査を行いましたが、その正体は不明という結論に至ったのです!!
つまり!!それは未知です!!なら、どうして魔獣の卵であると判断できたのか?それは、アメリカ最高峰の鑑定士が、この卵を鑑定した結果、生き物であることだけは判明しているからです!!
さぁ、皆様!!この未知を解き明かしたくはありませんか!?魔獣の力を、その手にしたくはありませんか!?価格は1000万から始めましょう!!」
司会者が木槌を掲げた瞬間、会場のあちこちから一斉に札が上がった。
「一千二百万!!」
「一千五百万!!」
「二千万!!」
次々と飛び交う金額に、会場の熱気は瞬く間に最高潮へと達していく。競り人たちは互いを牽制するように視線をぶつけ合いながらも、一歩も引く気配を見せず、卵の価格は信じられない勢いで跳ね上がっていった。
しかし、その熾烈な争いに一切加わろうとしないテーブルが、一つだけ存在していた。そう、ディアブロたちの席である。
「どうだ?あの卵は、お前の目にはどう映っている?」
静かに問い掛けられた水瀬は、卵をじっと見つめたまま小さく首を傾げる。その瞳は真剣そのもので、答えを探そうと必死に思考を巡らせていた。
ディアブロは何も口を挟まない。ただ静かに、水瀬が自分自身の力だけで答えへ辿り着くのを待っている。
‥‥分からない。
ディアは言っていた。目利きは戦いと同じだと。ただ目で形を見るんじゃない。本質を見抜くことこそが、本当の目利きなんだって。
だけど、その本質の見抜き方がまだ分からないけど、少なくとも、あれが魔獣の卵である可能性だけは絶対にないと、それだけは断言できる。
決して本質を見抜いたわけじゃない。ただ、本物の魔獣であるベガちゃんを何度も見てきたからこそ分かる。あの卵から感じる物は、ベガちゃんとは決定的に違う。
だから、あれは魔獣の卵じゃない。じゃあ、一体何なの?きっとディアは、その答えを見つけろと言っているんだ。
魔獣じゃないことくらい見抜けて当然。その先にある、本当の正体を見抜けということなんだ。
やばい!!そろそろオークションが終わっちゃう!!
刻一刻とタイムリミットが迫るにつれ、水瀬の意識は周囲の喧騒を切り離し、目の前の卵だけへと集中していく。耳に届いていた競りの声も次第に遠ざかり、視界には卵しか映らなくなるほど神経が研ぎ澄まされていった。
そして、その極限まで研ぎ澄まされた意識の中で、一つの答えがまるで霧が晴れるように自然と浮かび上がる。
「あれって、もしかして‥‥サラマンダーの卵??」
その答えを聞いた瞬間、ディアブロは満足そうに微笑みながら、パチパチと静かに拍手を送った。
「正解だ。そう、あの卵は蜥蜴の卵だ。
ダンジョンに存在するモンスターは、ダンジョンによって生み出されるのが常識になっている。だが、ゴブリンやオークのような種族は繁殖によって数を増やすことも確認されている。つまり、ダンジョン内のモンスターはダンジョンだけに依存しているわけじゃない。自分たちでも子孫を残し、その数を増やせるってことだ。まぁ、それが確認されるほどの事例は、かなり稀だとは思うがな。
よく感じ取ったな。やれば出来るじゃないか。」
その頃には競りもついに決着を迎え、司会者の木槌が高らかに打ち鳴らされる。
「十億!!十億で落札!!」
歓声と拍手が響き渡る中、蜥蜴の卵は九番の参加者によって、十億という破格の金額で落札されることとなった。




