↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元エリート役人の天下り先は冒険者 ~自作マニュアル(物理)で実現する死亡率ゼロの職場改革~  作者: マルシュナの散歩係


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/27

第24話 研修の成果

 ――人類未踏の地。絶対不可侵の領域と呼ばれる『竜の鱗山脈』。


 万年雪に覆われるその頂に、一人の男が立っていた。


「おや?」


 男は、人間大の麻袋を片手で抱えたまま、遥か彼方の眼下へと視線を向けた。


 普通の人間なら、どんなに目を凝らしても見えるはずのない距離。


 だが、彼の化け物じみた視力は、遠く離れた『山蛙の巣』のキャンプ地に巻き起こっている異常事態を、手に取るように正確に捉えていた。


「まあ、大丈夫だろうけど、行かないといけないよな。《《ギルド長》》としては」


 彼はそう呟くと、一切の躊躇なく、数千メートルの断崖絶壁から虚空へと足を踏み出した。


 目指すは山蛙の巣。


 普通なら山を下り、森を抜けるルートを考えるところだが、彼は一番早いからという理由で『崖を跳ぶ』を選んでいた。


 ――――


 一方、その頃。魔境のキャンプ地では。


「おい! 全員こっちに集まれ!!」


 ブリッツとクイックの叫び声に応じ、飛龍と絶賛鬼ごっこ中のサーブを横目に、脱落組の受験者たちが巨大な倒木の陰に集結していた。


「どうする? あの受付嬢放っておいて逃げるか!?」


 クイックの現実的な提案に、レシーブがうな垂れながら口を開く。


「ごめんなさい。あれ俺の姉ちゃんなんです。見捨てるのだけは勘弁してください」


「……冗談だよ。だが、助けるにしても逃げ道は確保しなきゃいけねえ」


 クイックは軽く舌打ちをし、ブリッツを見た。


「ここから帰る方法、知ってるか?」


「……確か、前回挑戦した時は、試験官から『瓶詰め』をもらって魔法陣が発動したんだ。中身はネバネバしてて臭かったから、転移した瞬間に捨てちまったけどな」


 ブリッツの言葉に、隣にいたトスがすかさず補足する。


「それは『山蛙のガマ油』です。それを持っていることが、こっちの転移魔法陣を作動させる必須条件なんです。えっと、確かスパイクさんが『帰るのに必要なのは蛙の許し』って言っていました」


「……ダジャレか?」


 クイックの一言にトスは赤面する。


「ダジャレだろうが何だろうが、当然ギルド側がどこかに用意してあるはずだよな?」


「あー……さっき、テントの下に積んであったのは見ましたけど……」


 レシーブが指差した先。


 そこにあるのは、飛龍の羽ばたきによって木っ端微塵に吹き飛ばされ、影も形もなくなったテントがあった場所だった。


「……いや、でもそれで全部ってわけじゃないだろ。あのログハウスがギルドの詰め所なんだろ?」


 クイックがわずかな希望にすがり、ログハウスを指差す。


「そうだな。詰め所ならストックくらいあるはずだ」


 ブリッツも頷くが、レシーブの表情は絶望に染まっていた。


「すいません。俺の姉ちゃんなんです。めちゃくちゃ大雑把なんです。『あればあるだけ外に出して、使わなかったらまたしまえばいいや』って考えるタイプの人間なんです」


「…………」


 トスが何とかサーブをフォローしようと口を開きかけたが、数秒考えて「あ、無理だ」と悟ったように苦笑いを浮かべて口を閉ざした。


「……だが、一応探すべきだな。俺が入る。鍵とかかかってないよな?」


 ブリッツが覚悟を決め、ログハウスへ向かって駆け出そうとした――その瞬間だった。


『ギャァァァオオオオッッ!!』


 飛龍の巨大な尻尾が薙ぎ払われ、ギルドの詰め所である木造ログハウスが、呆気なく宙を舞い、粉砕された。


「あー!? 私の家!!」


 飛龍の猛攻を躱しながら、サーブの金切り声が響き渡った。


「もー! もー! もー!! このデカトカゲ! えーと、ばーかばーか!」


「良かったな入る前で。……にしてもすげえなあの小娘。まだ余裕そうじゃねえか」


 死と隣り合わせの状況で本気で腹を立てているサーブの姿に、クイックはもはや呆れを通り越して感心していた。


「……ちなみに、今から山蛙のガマ油を直接採りに行ったら、時間はどれくらいかかる?」


 ブリッツの問いに、レシーブは即答する。


「最速で30分です」


 全員の視線が、飛龍の爪を曲芸のように躱し続けるサーブへと向いた。


「あの受付嬢、30分くらいなら持つか……?」


 まさかな、でも出来そうだな。と言わんばかりにクイックが呟く。


「いや、さすがにあと10分が限界だと思います。よ?」


 自信なさげにトスが答える。


「たった一人で飛龍相手に10分はもつのかよ。すげえなギルド職員」


 クイックとブリッツの声が見事にハモった。


「……ところでクイック。お前さっき飛龍の脚に一撃食らわせてたが、どうだ? 攻撃、通りそうか?」


 現実的な問題に、ブリッツが真剣な表情で問う。


 だが、クイックは力なく首を横に振った。


「無理だな。あの鱗、すべてが『陸王ガメ』の甲羅並みに硬ぇ。俺の剣じゃ傷一つ付けられる気がしねえよ」


 陸王ガメ。それは並の武器では決して刃が立たない、鉄壁の防御力を誇るモンスターである。


「……え?」


 その時、今まで口を閉ざしていた薬師のクロスが、不思議そうに首を傾げた。


「あ?」


「陸王ガメって、この魔境にもいましたよね。すごく大きかったですけど……」


 クロスは、隣でガタガタと震えている巨漢の戦士、ディグの方をチラリと見た。


「あー、いたな。絶対に相手したくないデカさのカメが」


 クイックとブリッツが山蛙の巣で見た光景を思い出す。


「ディグさん、さっきその甲羅、普通に叩き割ってましたよ。ね?」


「…………え?」


 一瞬の静寂。


 クイック、ブリッツ、レシーブ、トス。

 その場にいた全員の視線が、大木の陰で自己嫌悪に陥り、丸まっていた不器用な戦士・ディグへと一斉に突き刺さった。


「……マジで?」


 絶望の魔境に一筋の、しかしとてつもなく太い希望の光が差し込んだ瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。