第18話 連帯責任
「――では! これより皆様お一人ずつの試験内容、つまり『ミッション』を発表しまーす!」
絶望で静まり返る広場の中、サーブだけがピクニック気分の明るい声を響かせる。彼女はバインダーを捲りながら、パイプ椅子にちょこんと座り直した。
「お名前を呼ばれた方は、こちらの受付窓口まで順番に来てくださいねー!」
――――
「次の方ー! クイックさーん!」
「……俺だ」
重い足取りで進み出たクイックに、サーブは満面の笑みで一枚の用紙を差し出した。
「クイックさんの試験内容は……『採取ミッション』ですね! この山蛙の巣のエリア内で『松キノコ』を五本採取してきてください。制限時間は三時間です!」
「……は? 松キノコ?」
クイックは思わず用紙とサーブの顔を交互に見比べた。
「おい待て! こんな超高級食材がこの森に生えてんのかよ!?」
「もちろんです」
一片の曇りもない笑顔で親指を立てられ、クイックは深い溜息をついた。
「あ、そうだクイックさん。注意事項が一つあります」
ふと、サーブの顔から陽気なトーンが消え、底冷えするような真顔になった。
「まかり間違っても、必要数である『五本以上』は絶対に採取しないでくださいね?」
「……あ? なんでだ? 高く売れるんだから、見つけたら根こそぎ採ってきた方がギルドも儲かるだろ」
「ダメです。たかがキノコ一本でも、過剰に採取すれば生態系バランスが崩れます。もし六本以上採ってきたら……試験は即刻『失格』。さらに生態系破壊のペナルティとして、罰金をいただきますからね!」
欲を出せば即失格。理不尽な条件にぶつくさと文句を垂れながら、クイックは受付窓口を離れた。
「よお、クイック。どうだった?」
テントの陰で待機していたブリッツが声をかけてきた。
「ああ。俺は『松キノコ五本の採取』だ。見つけても六本以上採ったら失格らしい。ふざけたミッションだよ」
「……やっぱりお前も『採取』だったか」
「やっぱり?」
「俺のミッションも野生メロンの『採取』だった」
クイックが眉をひそめると、ブリッツは顎で周囲の受験者たちをしゃくった。
「そして、あそこで頭を抱えてる不器用そうな戦士、あいつのミッションも『採取』らしい。逆にあの薬師の姉ちゃんのミッションは『討伐』だ」
「え……?」
「おそらくだが、この試験……ギルドは意図的に『討伐』か『採取』の二択から、受験者の苦手な方をぶつけてきてるな」
クイックは思わず声を荒らげた。
「待て待て待て! じゃあなんだ、俺の得意不得意までギルドの奴らに完全に把握されてんのかよ!?」
「だろうな。……まあ、冒険者の過去の依頼履歴をデータ管理してるんだ。わからないはずねえよ」
ブリッツは苦々しく笑いながら、己のフルアーマーをコンコンと叩いた。
自分たちの情報が完全に丸裸にされ、的確に弱点を突かれている。クイックは背筋に冷たい汗が伝うのを感じた。
「……今回、組まないか?」
不意に、ブリッツがクイックにそう持ちかける。
「ああ? 良いのか? 試験中に協力なんて、ギルドの奴らにバレなきゃ良いが……」
「それは、大丈――」
「大丈夫ですよー!」
少し離れた受付から、耳ざとく会話を聞きつけたサーブが声を張り上げて言葉を奪った。
「ギルドはむしろ、冒険者同士の協力や情報の共有を大推奨しております! 堂々と組んで構いませんよ! ですが試験ですので『ペア』までという上限は設けさせていただいてます」
「お、マジか。意外と太っ腹じゃねえか。上がるな!」
クイックのテンションが上がり、顔に喜色を浮かべた。
「ただ――!」
サーブは満面の笑みで釘を刺す。
「パーティーを組んだ場合、片方のミッションがクリアできなかったら、連帯責任で『両方脱落』になりますからね。ですのでパーティー登録は忘れずにお願いします。もし未登録パーティーで攻略した場合、大きめのペナルティがありますので、そちらも気をつけてくださいね」
「……下がるわー」
クイックの肩が目に見えて下がる。
「ああ。だが、難易度もかなり下がる。俺は前回それを理解しないまま、ソロで突っ込んじまったから落ちたんだ」
ブリッツがニヤリと笑い、クイックの肩を叩いた。
「だが今回は、クイック。お前がいる」
ブリッツは受付の方をチラリと見る。サーブは両手を握り、頑張れと言わんばかりにガッツポーズを送ってきた。
ブリッツは兜を脇に抱え直し、広場にいる他の冒険者たちを見渡した。 彼らの視線の先では、先ほどまで頭を抱えていた戦士と薬屋が、恐る恐る言葉を交わし、パーティーの結成に向けた話し合いを始めている。
冒険者が死ぬのは、自分の得意分野が通用しない『想定外』の事態に直面した時だ。
だからこそ、自分の限界を知り、他者と協力して弱点を補い合う。それが、四等級という中堅以上に求められる『絶対に生きて帰るための能力』である。
新体制のギルドが目指しているのは、単なる個人の武力の評価ではない。未知の魔境においても情報と協力を駆使し、確実に生還できる強かさの育成である。
クイックとブリッツという二人のベテラン冒険者もまた、そんなギルドの理念という巨大な手のひらの上で、まんまと『正しい冒険者のあり方』を学ばされているだけに過ぎなかった。
「行くぞ、クイック」
「おう。足引っ張んなよ」
二人は忌々しさと、それ以上の納得感、そして、かつて己のなかで燃えさかっていた希望を胸に、鬱蒼と生い茂る三等級の魔境『山蛙の巣』へと足を踏み入れた。
ただ、テンションの上がった二人は忘れていた。
この場所が、二人にとって格上の難易度だということを。
そして、新ギルドの性格の悪さを。




