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元エリート役人の天下り先は冒険者 ~自作マニュアル(物理)で実現する死亡率ゼロの職場改革~  作者: マルシュナの散歩係


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第12話 新体制

 冒険者ギルドの上層部が一掃され、新体制が敷かれてから一年。


 かつては数ヶ月に一度、おざなりな講習に使われるだけで半ば放置状態だった初心者用ダンジョン『はじまりの横穴』は、現在、その名と共に役割を大きく変えていた。


『はじまりの横穴』改め――『初級冒険者ランク設定試験会場』へと。


 ギルドが新たに導入した、すべての冒険者を全七等級の序列へと組み込む『冒険者ランク制度』


 その本格的な運用に伴い、このダンジョンは週に一度、『初級冒険者ランク昇級・設定試験会場』として利用されることとなったのだ。


 試験の対象となるのは、これから初陣を飾る新規冒険者と、ギルドから五等級以下のランクに指定された既存の冒険者たちである。


 ある程度の経験を積んでいながらも、『初級』の冠をつけられた場所でルーキーと同じ試験を強いられるこの新制度は、拭いようのない不満と鬱屈を抱え込ませる温床にもなっていた。


「――全員、注目! これより『初級冒険者ランク設定試験』の事前説明を行います!」


 魔法拡声器の声が響き渡ると、ざわついていた試験参加者たちが一斉にギルド職員へと集められた。


 どこかピリピリとした不満げな空気を漂わせる既存の冒険者たちとは対照的に、何かに気付いた新規冒険者たち一部で、色めき立つような囁きが交わされる。


「おい、見ろよ。あの二人……」

「ああ、マジか。本物じゃねえか!」


 彼らの視線の先にはダンジョンより現れた、まだあどけなさの残る少年と少女の二人組だ。


 彼らこそ、ランク制度導入後、七等級から四等級へと『初級の壁』を最速で打ち破った、現在の若手冒険者の顔とも言える期待のパーティー『黒猫』のレシーブ&トスであった。


 レシーブとトスは、ダンジョンの入り口から出てくると、ギルド職員の元へと歩み寄る。


「『試験会場』内部の事前攻略、ならびに試験運用における安全確認、終了しました。異常なモンスターの湧きや、違法トラップの配置はありません」


「ご苦労様でした、レシーブさん、トスさん。事前監査の完了を確認しました」


 レシーブの淀みない報告に、ギルド職員は手元のバインダーにチェックを入れ、深く頷いた。


 試験参加者たちを危険に晒さないための、上位ランク冒険者による事前クリアと監査。それこそが、新体制のギルドが徹底している安全管理の一環だった。


 ちなみに監査料が銀一枚と、中堅以下や若手冒険者からしたら、割の良いバイト料が設定されている。


 しかし、その光景を面白くないと睨みつけている男がいた。


 六等級に甘んじている中堅冒険者、クイックである。


「……おいおい、ふざけてんのか?」


 クイックは列からドカドカと歩み出ると、ギルド職員とレシーブたちの間に割って入った。


「どういう基準でランク付けしてんのか知らねえがな、なんで俺より、こんな乳臭いガキどもが上の階級にいやがるんだ! ダンジョンでの経験も、腕っぷしも、どう考えても俺の方が上だろうが!」


 首に青筋を立てて唾を飛ばすクイック。周囲の既存冒険者たちの中にも、我が意を得たりとばかりに同調の空気を漂わせる者たちがいる。


「口で言ってもわからねえなら、今ここで証明してやるよ!」


 そう叫ぶなり、クイックは背負っていた大剣を引き抜き、傍らに設置されていた案内用の立て看板を勢いよく真っ二つに叩き斬った。


 派手な音を立てて木端が飛び散り、周囲の新規冒険者たちが悲鳴を上げて後ずさる。


 売られた喧嘩を買う気満々で、静かに前へ出ようとするレシーブ。


 一触即発か――新規冒険者たちがそう息を呑んだ瞬間だった。


 しかし、レシーブの襟首を背後からトスがガシッと掴んで引き留めた。


「ちょっ、離せよトス!」


「馬鹿。ここで私たちが手を出したら面倒なことになるでしょ。ほら、見てなさいよ」


 ジタバタと暴れる相棒に呆れ果てたため息をつきながら、トスはギルド職員の方へ視線を送る。


 ギルド職員は、真っ二つになった看板とクイックを無表情で交互に見比べた後、手元のバインダーにスラスラと何かを書き込み始めた。


「ああ、なるほど。ご自身の実力が今の等級を越えていると、そうおっしゃるのですね?」


「あ? そうだよ! こんなガキ共より俺の方が……」


「素晴らしい意気込みです。じゃあ、今回の試験で実力を証明できればすぐにでも昇級できますね。ぜひ頑張ってください」


「……は?」


「なお、ギルド備品破損の罰金として、次回の素材買い取り時に銀二枚を天引きさせていただきますね」


「……へ?」


 大立ち回りを演じる気満々だったクイックの気勢がスッと空振りし、それに乗っかる気満々だった傍観者たちも、罰金という地雷を見せられることで意気消沈した。


 ギルド職員の顔には、怯えもなければ怒りもない。ただひたすらに事務的で、一切の感情を排したマニュアル通りの塩対応だった。


 この一年、新ギルド長による研修という名の拷問――もとい、血の滲むようなスパルタ業務指導を受けた彼らにとって、血気盛んな冒険者のクレームなど、もはやそよ風のようなものである。


 完全に慣れていたのだ。


「あ、いや、だから俺は……」


「では、事前監査も無事に終了いたしましたので、これより順次ダンジョンへの進入を許可します! クリア基準は一時間以内の攻略で六等級、三十分以内で五等級認定となります。五等級認定を受け、四等級への昇級を希望される場合、そこで昇級試験を受けることが出来ます。試験料は銅五枚です。お釣りの無いように前もっての準備をお願いします!」


 クイックの言葉を綺麗に遮り、職員は魔法拡声器を片手に淡々と業務を進める。


「怪我のないよう、己の身の丈に合った行動を心がけてください。――それでは、試験開始!」


 毒気を抜かれたクイックが呆然と立ち尽くす中、新体制の厳しさと少しの滑稽さを孕んだ初級冒険者ランク設定試験が、ここに幕を開けたのだった。




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