サイアクだ
やあ、僕はラット。
前回のあらすじ…は特に必要ないよね。
サイアクのままさ。
脱獄してきたというメイ・ジーとオーバをウチに入れて、僕のスマホをキープしたまま交代しながらシャワーを浴びた。
サイアクを極めているのは、メイ・ジーの方だ。
彼女が使ってたシャンプーで洗髪したらしい。
思い出とトラウマがフラッシュバックして、もうサイアク。
二人ともスマホを持っているのに、僕が通報しないようにスマホは取り上げられたままだ。
髪を乾かしながらメイ・ジーが口を開いた。
「服が必要だ、買いに行かなきゃいけない」
ドライヤーの音より大きな声で叫ぶ。
「確かに。このイカした囚人服からおさらばしないとな」
オーバは僕のジャージを着て、小さいなと文句を言っていたばかりだ。
「と、いうわけだ。もう一回車を出してもらえるかな?」
メイ・ジーは僕に優しく語りかけた。
「ショッピングできるところまで、お届けすれば僕はお役御免かな?」
メイ・ジーは優しく首を横に振った。
「とりあえず、俺はここにいる。メイと一緒にこのイカした囚人服よりイカしたやつを頼むよ」
オーバはタバコを吸い、煙を吐き出しながら言った。
「僕はタバコを吸わないんだ、賃貸だし、ここでタバコはやめてくれるかな?」
「いーや、申し訳ないけどそれは無理な相談だ。久しぶりのタバコだからね。ドラッグじゃないだけ勘弁してくれ」
そう言ってると、火災報知器が当然鳴った。
「ほら、部屋もやめてくれって」
「換気扇の下ならいいだろ」
オーバは長身を生かして火災報知器のアラーム音を止めて換気扇の下まで行った。
「ネズミ小僧、スイッチはどれだ?」
「左の方にあるよ。換気してくれる便利なスイッチだ」
換気扇を回すと、彼は満足げにタバコを吸った。
「これでいいだろう?」
銃で撃たれるよりマシか…。
そのタバコも僕が買ってあげたんだから、と一言言うべきだったかな?
「とりあえず、車を出す。キーを渡すんだ」
僕はジーンズに下げてたキーを渡して、腰掛けた。
「ラット、君も来るんだ」
と、メイ・ジーが言った。
「どうしてさ」
「君が運転するんだ、俺がキーを持ってれば車は動くだろう」
「そういうことね」
僕はとにかく、なんとか警察にこの二人を差し出したい。
「ラット、君が警察まで車を出そうもんなら、当然だけどこの銃が君を撃ち抜くことになる。俺は人を殺したくないし、傷つけたい意図もない。だから安心して車を出して欲しい。俺たちの指示通りに動いてくれれば君を傷つけはしない」
「本当かな」
「本当さ」
「俺は助手席に座るんだ、ドライバーの君を撃ったらどうなるかくらい考える頭はある」
「その考える頭を脱獄の手伝いのためじゃなくて他に活かせなかったのかい?」
メイ・ジーは刑務官だったようだ。
それでいて、親友のオーバが刑務所に入ってきたのを見て、絆された頭で脱獄の手伝いをしたらしい。
「ああ、俺はイカれた友人のために自分を犠牲にすることを選んだ。それが正しい選択だったかどうか、君が見届けて欲しい」
「今のところ、100パーセントじゃ足りないくらい間違った選択だと思うけどね」
「オーバ、なんでそんな目立つタトゥー入れたんだ、このクソ暑いのに長袖を着ることになるぞ」
「おいおい、超自由になったんだぜ俺は。ド派手なヤツで頼むよ」
───そんなこんなで、ショッピングモールまで来た。
刑務官は常に僕の後ろを歩き、動きを観察していた。
「ファストファッションでいいかい、メイ」
「構わない、長袖とジーンズだけでいい」
「サイズは?」
「俺が選ぶ、それで俺が金を出す」
な、変だろこの刑務官。
変なところまともなんだよ。
───とりあえずショッピングを済ませて、また車に戻った。
メイは一息ついて、ふう、とため息を漏らした。
その隙に銃を奪って、一思いにやっちまえ、と思うだろ?
彼はレフティで、この車はジャパン製だ。仕様も右ハンドルだから左手にある銃を奪えやしないんだ。
変なところをこだわったばっかりに…。
サイアクだ。
タトゥーを隠すための長袖とジーンズ、ただそれだけの付き添いなのに、僕はやけに疲弊した。
サイアクだ。




