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居待月 ―― 狩りへ
その頃、大内裏の奥深く。
帝は重苦しい衣ずれの音と、代わり映えのしない雅楽の調べに、深く溜息をついた。
「また奏上か。同じようなことばかり……」
並べられた書状を一瞥もしない。権力者たちが持ち込むのは、家柄の自慢か、縁談の売り込みばかり。帝には、どれもこれもが色褪せた絵巻物のように映っていた。
帝は立ち上がり、風にゆらりと揺れる御簾を乱暴に払いのけて、その先の空を仰いだ。整い、美しい中庭を見ても、心が動かない。
「……つまらぬ。狩りに出る」
突然の宣言に、控えていた近習たちが慌ただしく動き出す。
主の気まぐれは絶対であると知る彼らに迷いはない。近習の一人が先回りして愛馬を繋ぎ、もう一人が帝の乱れた着付けを正そうとする。だが帝はそれを待たず、強引に鞍へ飛び乗り、整然とした宮廷の空気を切り裂くように都の喧騒へと馬を駆っていく。
広大な野を駆け、桑畑を突き抜け、その奥に続く山を目指した。
清流が走り、野鳥が舞い、猪や鹿が影を落とす深い森。獲物の気配に満ちたその場所へ向かえば、この退屈な澱みを吹き飛ばせるかもしれない。
帝は手綱を強く引き、風を切って疾走する。その瞳には、獲物を追い求める鋭い光が宿っていた。




