黄昏月 ―― 結婚するための条件その壱
宮中、清涼殿昼御座――
蔵人頭惟光は頭を抱えていた。
「よくもまあ、これだけ書いてくれたものです。まことに契りを結ばれる気はあるのでしょうか」
結婚のハードルがエベレストより高くなってしまった弥子が、結婚するなら絶対呑んでほしいと言って、条件をつきつけたのだ。
帝と結婚するための条件
一、トイレ専用の個室を作る
一、湯殿と工房室兼休憩室を建てる。工事、監修全て任せること
一、工房の側に菜園を作る
一、十二単の着用は公式な儀式のみとする
一、普段着、宴には好きな装いを認める
一、帝と同じ部屋で寝る
一、他の女と浮気したら離婚する
一、自由な外出を認める
一、公式の外出以外は、供の者はつけない
以上、月野美弥子
帝に見せたところ、「限りあるまで叶えてやれ。弥子が皇后になるか、ならぬかは、そなた次第。しかと頼むぞ、惟光」とほぼ丸投げ状態。
蔵人頭は、ただでさえ忙しい。それが、弥子の条件を叶えるために、相当な労力を使うことになる。
大蔵省と民部省を相手に、皇后となる神の子を迎えるために神殿は不可欠と、無理やり予算をねじ込んだ。これで後宮の庭に湯殿や菜園を造設することが出来る。
十二単の着用については、女官たちから相当な反発を食らった。女官のトップ尚侍貴子は帝の側近。顔を立てるため、帝が直接、尚侍貴子と話をした。何せ前例のないこと。しかし帝の命令は絶対である。真っ向から拒否することは難しい。渋った挙句、他の女官も納得すれば従う、と尚侍貴子は眉間にシワを寄せて言ったらしい。
「あのお方は、神の子であらせられる。そのお方に、十二単を着せろと申すのか。それは非礼であろう。人と同じ装いでは身を汚してしまう恐れがあると陰陽師も申しておった」
「蔵人頭殿。ならば、儀式の衣はどうされるのか」
「天の最高権力者である神を崇めるためなら、神の子でも人の化身となり、祈りを捧げると申されておる」
神の子ワードで押し切り、女官たちを黙らせた。




