春待月 ―― 炬燵でみかん
息を吐けば白くなる季節、竹取の屋敷の離れでは、初めて過ごす冬を快適にするため、準備をしていた。
弥子は、湯殿に隣接した休憩室の中央部分の床板を捲った。四角く切り下げられた空間、それに合わせてあつらえた炬燵台。ここに父が吐いた絹糸を綿に加工してつくられた炬燵布団。木製の火入れ、陶器の火鉢に豆炭。
しかし、父は嘆いていた。
「この私が失敗するとは、情けない。どうして床暖を思いつかなかったんだ。せっかく湯殿があるのに」
「まあまあ、いいじゃない。お父さんの出してくれる糸で壁全体を囲むカーテンもあるから、暖かいよ」
「ここで冬を越すなんて、思いもしなかったな」
しみじみと言う父にみかんを差し出した。
「お父さん、好きでしょう。食べる?」
「おー、炬燵にみかんは欠かせないな」
蚕が炬燵の台の上でぴょんぴょん飛びはねた。蚕の姿になって、半年。いまだに人間に戻れず、現代へ帰る術も見つかっていない。
「美味いみかんだな」
「ほんとだ。たまには惟光も役に立つな」
「惟光? あいつ、また来たのか」
渋い声を出す父に、弥子は苦笑いしつつみかんを頬張った。
「今度、お餅も持ってくるって言ってたよ」
「餅、そうか、餅か」
「小豆があるから、煮詰めてあんこ餅にしようか」
「それいいな」
みかんを食べる手が止まらない、気づけばみかんの皮が山になっていた。それは父も同じこと。みかんをひたすら吸っている。
「惟光にあまづらも持ってきてって、お願いしたの。そのあんこ餅の材料持って、八子の里に行こうと思ってるの。かよちゃんのおばあさんの布団も作ったから、それも持っていって、クリスマスパーティーするつもりなんだ。あ、寒いから、お父さんは留守番ね」
絹の綿をたっぷり詰め込んだふかふかの掛布団をポンと叩いた。
「それは構わんが、暖かくしていきなさい」
「大丈夫、綿入の上着があるから」
外や世間の寒さとかけ離れ、ほのぼの生活を満喫する弥子と父であった。




