掬月 ―― ひいな
秋も深まる十月、皇族の姫君東の宮が裳着の儀と、同時に婚姻の儀も執り行われた。相手は大納言大伴御行。平安時代、経済的事情や政治的背景から皇族の姫たちは成人すると臣下へ嫁ぐ者も少なくなかった。東の宮は皇族から貴族へと降嫁となり、大納言の北の方と呼ばれることになる。
娯楽の少ない、退屈な都ではゴシップネタが好まれる。東の宮と大納言の結婚の話は、あっという間に広がって、弥子の耳にも入ってきた。幼い子供が政略結婚を強いられると聞いた弥子は、理不尽過ぎる時代だと痛感した。
「まだ十二歳なのに。可哀そうだよ」
皇族の結婚は最終的に帝が承認する。自分と帝との間には、感覚や価値観のズレがある。埋められない距離を感じて、やっぱりついていけないと、赤く染まった紅葉の絨毯を踏みしめながら、つくづく思ってしまった。
「あれらは人形と同じこと。見扱われ、綿のごとく覆い包まれ、荒き風にもあてず、世の浅ましきことも知らずに育つ。身の自由など、望むことすらできぬであろう。たとえそれを得たところで、何ができようか。独りにて生きてゆく術も知らぬのだからな」
「だからって、こんな早くに結婚させる必要があるの?」
「ある」
「な……」
弥子は言葉を呑み込んだ。切り捨てるような言葉。時々見せる冷酷な一面。これ以上、この話題には触れないほうが賢明だ、と思った。
「そうだ、かよちゃんと八子の里の人たち、元気だったよ。じゃあ、私はこれで」
「もう帰るのか」
「だって、忙しいんでしょう。惟光がいらいらしながら、そこで待ってるよ」
帝の視線が痛い。自分の心が見透かされそうで、弥子は逃げるように宮中を後にした。はらはらと舞い降りてくる赤や黄色の紅葉が名残惜しそうに秋の終わりを告げる。
季節は間もなく冬を迎えようとしていた。




