小望月 ―― 救出劇
弥子は地下の牢獄へ放り込まれた。随身は別の所へ連れていかれたらしい。
「くさっ。なにここ。へんな臭いがする」
薄暗い牢獄の中で、しくしくと女たちが二十人ほど身を寄せ合い泣いている。よく見れば、かよと変わらない幼い子供までいるではないか。
「大丈夫かい」
「あんたも捕まっちまったのかい」
「捕まっているのは、ここにいる人だけ? 他にもいるの? 悪いけど、縄ほどいてくれる?」
女たちが弥子の縄をほどいてくれた。縛られていたせいで痛む手首を摩りながら牢獄の中を歩き回った。壁には黒ずんだ跡もあり、隅には排泄物まで、劣悪な環境だった。
「こんなところに閉じ込めるなんて、酷い」
「ここは、まだましだよ。ここから出た子たちは、もっとひどい目にあってる。皆、いつ連れていかれるか、びくびくしているんだ」
「帰りたいよぉ。うわーん」
かよとあまり変わらない年頃の子供までいる。
「この子の母親は昨日、法師たちに連れていかれたまま、戻ってこない」
「法師? ここお寺なの?」
人の足音がして、女たちは自分たちの口を押えた。さらに身を寄せ合い、ぶるぶるがたがたと震えている。
かんぬきが外れ、体中に血を滲ませ、あざだらけの女が放り込まれた。鞭か何かで叩かれたのか、背中部分が引き裂かれ、真っ赤に腫れあがっていた。その痛々しい姿を見て、次は自分かもしれないという恐怖に嗚咽が漏れる。
「阿闍梨さま、ちとやり過ぎたのではないですか」
「何を言う。あの女は、この徳の高い私をひっかいたのだぞ。罰は与えぬといかんだろ」
野太い声で嘲笑う男たちは、全員、袈裟を着ていた。弥子はふつふつと沸く怒りで拳を握りしめた。
(徳なんて欠片もないくせに。まじ最低。くそ坊主)
「阿闍梨さま、上人さまがお呼びです」
「おお、そうじゃった、今夜は皇子が来る日だった。お待たせしてはいかん。皆の者、早く参ろう」
法師たちは慌てて地下の階段を昇って行った。女たちが倒れている女の所に一斉に駆け寄った。
「大丈夫かい」
「酷いやつらだよ」
「逃げたい」
「無理だよ。私らが逃げたら、男たちはどうなる」
「男? この寺のどこかに、男の人もいるの?」
「そうさ。うちの村の男は皆、鍛冶職人でね。蓬莱のなんとかってのを作るために、連れてこられたんだよ」
「蓬莱の玉の枝?」
「それだよ。ものすごい報酬くれるって言われて。みんな騙されたんだ」
「あなたたちは、どうしてここへ連れてこられたの」
「人質だよ。男たちが言うこと聞かないと、私らをひどい目に合わせるって脅してるんだ
「ありがとう。そこまで分かれば、十分だわ。皆、聞いて。今から、逃げるよ」
「無理だって。男たちも捕まってるのに」
「大丈夫だと思う。そろそろ、騒ぎが起きるはず」
うおーっ。獣のような雄たけびが聞こえ、ドンドン、ガンガン、激しい音まで聞こえてきた。
(きっと後を付けてきた随身たちだ。乗り込んで来てくれたんだ! そのうち、ここを探しあて、鍵を開けてくれるはず)
「私らも逃げるよ」
「どうやって」
「待ってよ。こんな体なのに、しずは無理だ」
弥子は小袖に忍ばせていた小粒の薬を女の口に入れた。
「しばらくしたら、ましになると思う。誰か、ついててあげて」
「弥子さま。遅くなりました。ご無事ですか」
後をつけていた随身が、和尚から奪った鍵で海老錠のカギを開け、かんぬきを外した。
「ありがとう」
「早く逃げましょう。皆、火を消すのに必死になっています」
「火をつけたの」
「いえ、鍵を奪った時、和尚の持っていた松明が建物に引火したのです」
何故か、随身の口元が笑っている。引火するように仕向けたんだ、と弥子は悟った。
「さぁ、参りましょう。外に馬を待たせております」
「だめよ。ここにいる皆を助けないと」
「ご安心を。まもなく、帝の勅命で手配した検非違使がやってきます。火を消す名目で」
「帝が……」
(ここにいないくせに、しっかり爪痕を残してくれるなぁ)
弥子は苦笑いした。
炎は勢いを増し、寺院を呑み込んでいく。助けてくれと叫び、逃げ惑う僧侶たちを乗り込んできた検非違使たちが次々と捕らえていった。




