小望月 ―― 因縁の相手
その頃、宮中では――。
夜まで続いた行事をようやく終えたばかりの帝は、弥子の姿を探した。
待機していた随身がすかさず帝に向かって平伏した。
「主上、恐れながら申し上げます。弥子さまが、早馬に乗って、村へ向かわれてしまい……」
「聞こえなんだ。もう一度、申してみろ」
随身は、恐怖に慄きながら、床に額をこすりつける。冷や汗がだらだらと流れ落ちていく。
「恐れながら申し上げます、弥子さまが、早馬に乗って、村へ向かわれてしまいました。お引き止めはいたしたのですが、あまりに早く」
帝が随身の胸ぐらを掴み、鬼の形相で睨みつける。
「なんのために、行かせたと思っておる」
「お怒りは承知しております」
「主上――」
また一人、弥子につかせた随身が戻ってきた。嫌な予感しかしない。帝は胸ぐらを掴んでいた随身を払いのけると、たった今、戻ったばかりの随身の前に行く。
「弥子はどうした」
随身は青ざめたまま平伏し、額を床にこすりつけた。
「主上、恐れながら申し上げます。弥子さまが、自ら囮になって、賊の潜伏先に連れて行かれました」
「惟光ーっ」
誰もが、心臓を掴まれた気がした。落雷に打たれたように全身がビリビリした。
「はっ、何なりと申しつけください」
「すぐに出かける支度をせよ」
「な、なりませぬ。明日も朝から御祈祷が」
「主上、恐れながら申し上げます。潜伏先は、道安上人がおられる寺院です。弥子さまには鷹がお傍でお守りしております。どうか、いましばらくお待ちください」
「道安だと」
宮中を追放した因縁の相手、道安が絡んでいる。帝は、歯がゆさと、いら立ちでどうかなりそうだった。弥子の一大事に飛んで助けに行くことすらできないのか。
「ならば、今すぐに寺院へ行き、潜り込んで必ずや弥子を守れ。傷一つ、つけようものなら、そちらの首だけでは済まさぬゆえ、覚悟しておけ。惟光は、逐一私に報告しろ」
「御意」
大きく息を吐いて背を向けた帝は、ふいに足を止め、振り返った。
「待て。私に策がある」




