小望月 ―― 神の声
弥子が川辺に行くと、さきほどの随身が放心状態で子供の側にいる。
「どいて」
随身は、ハッとした。すかさず、弥子に平伏した。弥子は怪訝な顔で随身を見ながら、子供を気に掛ける。
「さきほどのご無礼をお許しください。姫君」
「は?」
「私に、どうかご命令を」
「何なの、いったい。もう帝たちのところへ戻って」
弥子に言われ、ふらふらとした足取りで帝たちの所へ戻った随身がガクッと膝をついた。
「あの方は神の子です。間違いございません」
膝を着いた随身の肩に惟光が手を置いて、顔を覗き込む。
「何があった」
「か……神です。神の声を聞きました。周りには私と弥子さまと瀕死の子供しかおりませんでした。それなのにあの方は、御父上に助けを求められました。男の声で「飲ませてみろ」と。そうしたら弥子さまの手に突然、小さな粒が出てきて、それを子供に飲ませたんです」
「何を申しておるのだ。神の声だと」
「まことでございます」
皆の視線が川辺に向けられる。そして奇跡が起きたことを目撃する。一人で立ち上がる子供の姿に、おーっとどよめきが上がった。
帝は、随身たちを押しのけて川辺に向かって走り出した。
「私は信じるぞ。やはり弥子は神の娘。誰が何と言おうと、神が私に授けてくれた娘なのだ」
川辺では弥子が子供に「どこか痛いところはない?」と穏やかな声で話しかけている。
「弥子っ」
帝は弥子を背後から抱きしめた。
「えっ、な、なに」
「もはや、そなたが誰であってもいい。私のものだ。そなたは私のものだ。誰にも渡さん」
弥子は抵抗して、帝を押しのけようとする。しかし強く抱きしめられて身動きが取れない。
「なんなの。勝手なこと言わないで。さっき言ったよね。もう二度――」
「弥子、そなたを私の妃に――皇后に立てる」
腕の中で激しく抵抗していた弥子の動きが止まった。
「え……。えーっ」




