小望月 ―― 蔵人頭は大変です
今日は、八月一日――八朔の節句。惟光の頭の痛い日と読む。
盛大な宴が催され、馬や献上品を持って臣下が忠誠を誓うのだが、ここぞとばかりに自分の娘を妃候補にしようと痛烈なアピール合戦が繰り広げられる。
恋文のような推挙状が山と積まれ、それをすべて惟光が目を通す。八朔の宴の後は、食欲が失せるほど気分が悪くなり、頭痛と胃の痛みに夜もろくに眠れない。
しかも、しかもだ。最近、帝は非常に機嫌が悪い。それもこれも政務に追われ、行事も重なり、姫に会う時間がとれないせいだ。
「ここは早いうちに手を打たねば、まずいことになる」
つい先日、車持皇子が姫の屋敷に乗り込んで求婚しに行った。当然、姫は相手にしない。帝が助言した通り、姫は車持皇子に無理難題を吹っかけた。石作皇子も車持皇子も姫と結婚するため、旅に出たままだ。この宴にも顔を出していない。
皇子たちが姫の屋敷に行っただけでお怒りになるくらいなら、あんな賭け、お認めにならなければよかったのだ。
「惟光」
ほら来たぞ。
「なんとかいたせ」
惟光は下を向いたまま、返す言葉を考えていた。いったい、何に対してだ。
「推挙状のことでございますか」
「そんなもの、燃やせばよかろう。娘をここに連れてこい」
「しかし、姫君は、誰が招待しても決して……」
「それを考えるのがそなたの仕事ではないか」
男装の娘を呼び出すか、姫を呼びだすか。どちらにしても一筋縄ではいかない。三日三晩、惟光は眠れぬ夜を過ごした。
(お忙しい帝は、外出もままならない。で、あれば、宮中に呼び出すしかない。男装の姫を呼べば、宮中で騒ぎが起きるに決まっている。なにせ、あの方は暴れ馬のごとく、手懐けることが出来ぬのだ)
「姫を呼ぶには、どうすればよいものか」
そうやって考えたのが、偽の納涼会だった。
そして今――琴を奏でる帝と、それを嬉しそうに聴く姫を見ることが出来た。
(惟光は、嬉しくて泣きそうです、帝。密やかなる二人の時間が、尊いものになるように心から願っております)
これでしばらくは、帝から難題を申しつかることはないと思っていた惟光だったが――
「姫の許しをもらったので、娘と会う。そうだな、川辺がいい。娘が乗る馬も手配してくれ。なるべく早く頼む」
やはり無理難題を吹っかけられるのであった。
「胃が……」




