隠月 ―― 消えた姫
何も知らない供の者たちは宮中を目指した。
「……着きました、姫様」
宮中の車寄せで、供の者の一人が声をかけた。しかし、車内からは返事がない。おかしなことに、姫が出てくる気配がまったくない。不思議に思い、供の者が御簾の中を覗き込んだ。
「姫様……?」
牛車の中には、十二単と一通の文があるだけだった。その文には見覚えがあった。昨日、姫から「宮中に持っていってほしい」と頼まれていたものだ。
着物だけが残った状況に理解ができず、供の者は狼狽し、牛車の周りを右往左往するばかりであった。
「姫が煙のように消えてしまわれた。大変だ、急いで帰って主に知らせないと」
迎えに来た石作の従者に、姫の供の者が文を押し付ける。
「何も聞かずに、これを……」
供の者は生きた心地がしなかった。
(姫が消えたなどと、翁にどんな言い訳をすればいいのか)
屋敷に戻るや否や、悲鳴のように叫んだ。
「大変です、主さま!姫さまが……姫さまが!」
姫がいなくなったと聞き、翁が驚愕の声を上げたその時だった。
奥の部屋から、何食わぬ顔で弥子が姿を現した。牛車を抜け出した弥子は、屋敷の裏から塀を越え、密かに自分の部屋へ戻っていたのだ。
腰を抜かした供の者と翁。牛車から消えたはずの姫が、なぜ屋敷にいるのか。
その謎を解く術を持たぬ彼らは、ただ呆然と見つめ合い、やがて「かぐや姫様は、やはり神の子なのだ」と、恐怖にも似た納得を深めるしかなかった。




