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初月 ―― 親子ゲンカ

 結局、屋敷まで送られてしまった。「近くでいい」と何度断っても聞き入れられず、使用人として裏口から入る体裁で、屋敷の端でおろしてもらった。


「それにしても偉そうだったな。山の途中で合流した細マッチョみたいな男の人たちも、へいこらしてた。それに細マッチョたち、失礼なぐらい驚いてたな。まるで人を幽霊でも見るみたいに……」


 弥子は首を傾げつつ、塀を乗り越えて屋敷へ戻った。


 帰ってからが大変だった。

 父の説教が止まらない。


「見ず知らずの男の馬に乗るなんて……お父さん、そんな娘に育てた覚えはないぞ。第一、貴族に喧嘩を売るなんて、切り殺されたらどうするんだ。今日のこと、お母さんに何と説明すればいいんだ。お前に何かあったら、お父さんは……お父さんは……悲しいどころの騒ぎじゃすまないんだぞ。それにだな……」


 延々と続く説教に、だんだん腹が立ってきた。弥子はごろりと横になって蚕に背を向けた。


「聞いてるのか、これ、弥子」


 弥子は体をひねり、蚕に向き直ると、寝たままの姿勢で口を尖らせた。


「私が危ない目に遭っている最中、自分は袂に隠れていたくせに。それに、好きで乗せてもらったわけじゃないし。お父さんだって一緒に乗っていたじゃない」


 部屋の仕切りは薄く、廊下では使用人が聞き耳を立てているかもしれない。弥子と蚕は顔を寄せ合い、ひそひそ声で罵り合った。家中の誰にも聞かれぬように気をつかいながら。


 拗ねた蚕は三日ほど、製糸業を放棄した。いわゆるストライキってやつだ。


「ごめんなさい、反省してます」


 謝るしかなかった。そうしなければ、商売が止まってしまうから。

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