第42話 届かない会話の果て
さて、ここが地獄の分かれ道。。。
名を出すと、仲間たちの脳裏にも、彼が浮かんだ。
ころころと表情が変わり、いつもどこかせわしない。
情が深く、涙もろい、騒がしいけど憎めない。そんな彼だ。
「あいつが、鍵だ」
ホウジュンはためらいもなく言った。
トキの見解とも一致する。
一人、魅入られたものがいる。他はついでだ。おそらく”ソウイチ”
「読み切りすぎなんだよ、お前は…」
この場にいない相手に、愚痴を零す。
いつの間にか影からの攻撃が止んでいた。
周りの風景も徐々に静まっていき、そこは…最初に足を踏み入れたがらんどうのようだった。
「元に…戻っ、て?」
「ないな。戻ってきたなら、入ってきた扉がある」
ホウジュンの言葉に、一人が振り向いた。
扉どころか、自分たちがここに来たであろう道すらなかった。
ただの、何もない空間に、6人が立っているだけ。
不気味なまでに静まり返ってるその場が、恐ろしく感じないわけがない。
刹那、空間の光が一瞬断たれた。
警戒した6人を余所に、すぐに明かりがつく。
しかし、そこには…先ほどまで何もなかった空間の真ん中に、突如巨大な鳥かごが現れた。
目測で高さは3m強。直径はそれより小さいように見えた。
今までとは違い、床に置かれた状態。籠の色は白。
そして……中に、座ったままの人のシルエットが見えた。
「──ホウ、ジュン…?」
籠の中から聞き覚えのある声が響いた。
合ってほしくなかった。そうでないと願った。
けれど、敵わなかった。
「ソウイチ…」
彼の名を呼んだのは、ホウジュンではない。別の仲間。
呼べないのだ。彼が、彼でないことが、ホウジュンの中で確定したから…
彼の、ソウイチの首に常にかかっているネックレスは、彼のレガティマだ。
それが、本来あるべきものが、そこにはない。
オブリシカに来る直前、トキにインプラントされたものの、一番最初に覚えさせられたこと。
”レガティマがなければ、それはもうルクスじゃない”
オブリシカは-例外を除き-入ったものを容赦なく吸収し、消失させる。
ルクスがオブリシカ内で活動できるのは、レガティマを持っているからに他ならない。
ホウジュンは、仲間の姿をしているそれらを見るとき、レガティマの有無を確認していた。
あるものは、指輪。
あるものは、チョーカー。
それぞれ、形は違えど、必ず持っている。それが、見当たらなかった。
”見えなくても、レガティマがあれば、わかんだろ?”
ルクスなら、それを持って戦おうとするはずだ。
パニックになればそれだけ、レガティマを武器に変形させて、足掻く。
さっき、咄嗟に武器を構えた同行の仲間の反応が、正しい。
けれど…籠の中の者たちは、そんな動作をみじんも見せなかった。
それが、答えだ。
「ほんと……どこまでも……」
正しいんだよ、トキ。
口には出さず、内部で悪態を吐いた。
与えられた思考が全部、綺麗に現状にマッチしていく気持ち悪さ。
自然と舌打ちが出る。こめかみに、指が伸びる。
「ホウジュン、どうし……」
動かなくなった彼に、仲間が声をかけるが、それをホウジュンは手で制した。
そして、ゆっくりと籠に近づいていく。
「おい…なんして…」
「もし、何か沸いたら、対処してくれ」
仲間の制止も聞かず、ホウジュンは籠に近寄る。
すると、向こうもわかったほうに、ソウイチも中央から端へと移動した。
ガシャンという音と共に、ソウイチが籠を掴む。
その姿はまるで、囚われた囚人のように見え、ホウジュンの心を抉った。
「ソウイチ…」
「──ホウジュン!どうなってる?!気づいたら、ここに…なんで?!」
「お前、自分がどうなってるか、わかってるか?」
「──おかしいんだ。なんでこんな…出してくれよ。なぁ、ホウジュン!」
「どうして、そこにいるんだ?」
「──俺はコンシリウムに、ユウヒに言われたとおりに、動いてない!」
「どうして出てこようとしない。できるだろう?お前なら」
「──なんで!どうして!俺が一体、なにしたって言うんだ!!」
出してくれ!とソウイチは叫ぶ。
ホウジュンは淡々と彼に問う。
会話が噛み合うことがない。
周りを警戒しつつ、仲間も近づいてくる。
けれど、二人の噛み合わない会話は止まらない。
いや、時折ホウジュンのほうが、辛そうに言葉を詰まらせていた。
「──なんで…どうして…」
籠を掴んだまま、ソウイチはずるずると崩れ落ちる。
ままならないことに絶望したそれに見える。
別の仲間が思わず手を出そうとすると、ホウジュンはパッとその手を掴んだ。
「まだだ……まだ……」
その先は飲み込んだ。
どちらに転んでも地獄なら、自分が背負うと、覚悟を決めた。
次回更新予定は6/26です。




