表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
PR
44/44

第43話 退くという選択

モブに名前が付いた瞬間。。。

ソウイチが握る格子に手をかけようとした刹那、反射のように、ビクリと手が反応し、動きが止まった。


”触るなよ?”


トキの声が、脳内に響いた。


”それはソウイチの救いじゃない”

”救われるのはお前だけだ”


その通りだった。

目の前の状況を一刻も早く打破したい。

自分自身が救われたいがために、今の状況に、手を伸ばそうとしているだけ。


眉間に指を押し当てる。

目を瞑り、呼吸を一つ。そして、ソウイチを見た。

彼と、視線は合わない。

ソウイチを、トキを、仲間を……

ユウヒを、思い浮かべる。


「すまん……」


それは果たして、誰に向けた言葉だったのだろう。


間違っている

 ──わかっている

自分本位なだけだ

 ──その通りだ

誰を救う気だ?

 ──俺は、仲間を…!


”間違ってるぞ”


ビクリと、また動きが止まる。

先読みされている思考も気持ち悪いが、それが正しいことだとわかることが、更に気持ち悪い。

正解はわかっている。

助けられるもの、助けられないもの、今やるべきこと、やってはいけないこと。

全部、全部わかっている。それでもなお…

この状況で、目の前にして……仲間を見捨てられるわけが、ないじゃないか!


三度目。今度は確固たる意志を持って、鉄格子に手を伸ばした。

が、振れる寸前、ガシッと肩を掴まれ、そのまま後ろに勢いよく引かれた。

振り返ると、仲間の一人が息を切らせて立っていた。


「………ラギ…」

「多分、ここで…合ってるよな」


苦笑いを浮かべながら言う。

何を言ってるのかわからず、ホウジュンはごく僅か首を傾げるが、お前が言ったんだろう。とラギと呼ばれた仲間が呆れた。


「『見捨てるのが正解だ。だけど、きっと俺はそれを選べない』」


ドキリとしたが、確かに、そんな話をしたのを思い出した。

ここに来る前、シンが乱入してくる前の、会話。


「『情に流されて、俺が間違えそうになったら、殴ってでも止めろ』

 殴らなくて、済みそうか?ホウジュン」


ニッと、ラギが笑う。拳を見せながら。

張りつめていた空気が、緩んだのが分かる。

自然と息が漏れた。


「悪い……」


それを聞いて、バシバシと遠慮なくホウジュンの肩を叩いたラギは、またもガシっとその肩を組んだ。


「言ったろ。お前一人に、背負わせるつもりもねぇ」


そうだ。と、他の仲間も続く。

ああ。また忘れていた。一人で戦っているわけではないということを…


バシン!!と、ホウジュンが自身の両頬をキツく叩いた。

ビリビリとした振動と、頬と手のひらに走る痛みが、思考をはっきりとさせていく。


「助かった。どうかしてた」

「おう!任せろ!」


闊達な声音に救われる。

この先、地獄は一人で背負い込もうと思っていた。

けれど、そうではないと知れた。

もう一度、ソウイチに向きあう。

今までのやり取りなど知らないかのように、ソウイチは同じ言葉を繰り返すだけだった。

ここから出して。と…助けてくれ。と…


「……戻るぞ」


ホウジュンの低い声に、仲間たちは頷いた。

それは、ソウイチにとっては、絶望の言葉だった。


「──なんで…」


ソウイチの声が零れる。

いつの間にか、会話が成立するようになっていた。

誰も、気づかないうちに…


「──なんで、助けてくれないんだよ」


ソウイチの声がブレる。

普段聞く声音ではなく、そこより若干低い声。

構わず、ホウジュンたちはソウイチに背を向ける。


「──ホウジュン…!!」

「──俺、仲間…だろ?……仲間だよな?!」


ソウイチの一言が、ホウジュンの足を止めた。

視線が落ちる。

咄嗟に目を閉じる。

ギリと、歯を食いしばる音が、脳内に響いた。

それでも…止めた足を踏み出し、視線を前に向ける。

彼の言葉を借りるなら、もう彼は…”仲間ではない”のだ。


「──待ってくれ」

「──置いて、いかないでくれよ」

「──助けて…助けてよ…」

「──助けてくれよ!!!」


── ──ガシャァァアアン!!!


ソウイチの叫びに応えるかのように、ガラスが激しく壊れる音が響いた。

彼らは一斉に視線を四方八方に散らす。

先ほどまで鳴りを潜めていた影たちが、ここぞとばかりに、空間を自由自在に飛び回った。


「おい!またかよ!!」


── ──カシャリ


その中で、ひどく耳に残る、乾いた音が届いた。

振り返ると、ソウイチが捉えられていた籠が開いている。

そこから、ズルリと黒い影が這うようにうごめき、外へと出た。

それはぐずぐずと不安定に揺れていたが、やがて、真っ黒な人の形となって、そこに立った。

顔もない。色もない。けれどそれは…まぎれもなく、ソウイチの姿だった。


「おい…マジかよ……」

「勘弁しろって…おい!」

「は?ホウジュン?!大丈夫か?!!」


混乱してる中、一人がホウジュンの異変に気付く。

こめかみあたりを押さえ、辛うじて崩れ落ちるのを耐えている様子だ。

だが、彼は顔を顰めながら、問題ないと呟く。


「問題ないって、お前…!」

「本当だ……トキの時差式を、食らっただけだ」


籠が開いた瞬間、身に覚えのない映像が頭の中で再生された。

”やれば、出来んじゃん”

皮肉めいた言葉と、この後どうなるかの予測が、一気に頭になだれ込んできたのだ。

情報量と精神負荷で、動きが止まった。それだけだった。


「あとはもう、所かまわず襲ってくるだけだ!できるだけ当たらないように避けつつ、受けるならレガティマで受けろ!」


喰らうと地獄だぞ。と付け加えるのを忘れない。

おそらくこれは、ファルシラに最初に訪れたとき、ユウヒが喰らったのと同じ類のものだ。

生身で受けなければ問題ないが、受けると際限なく精神を浸食される。


「道は惑わしてこない!ただ襲ってくるだけだ!ひたすら!走れ!」


次回更新予定は7/3です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ