第39話 焦燥の先へ踏み込む者たち
嵐の前の、静かな時間
ホウジュンが招集したのは、自身含め5人だった。
トキにインプラントされたリストから、単騎でも戦える、動けると判断した者を選抜したつもりだ。
「行くのはいいけど、リーダーお前なのか?」
自我が強い1人が揶揄うように言う。
普段なら受け流すが、今の彼にそんな余裕はなかった。
「わかった。なら抜けろ」
別にお前じゃなくていい。そう言い捨て、ホウジュンは別の者を呼び出した。
「は?ふざけん…」
「今は言い争う時間が惜しい。わからんやつはいらん」
彼らしくない言動に、周りの空気がピリついた。
それすらも、構ってる時間が惜しい。
急遽呼ばれた者たちに事情を話し、人数が増える。
向かうのは、6人。
「先に言う。これは…救出じゃない」
「は?」
「じゃあ、なに…?」
ホウジュンの言葉に戸惑う仲間たち。
彼は一度息を吐き、決意するように言った。
「状況把握、偵察……ファルシラを倒すための情報収集だ。その過程で、助けられたら、助ける」
「見捨てるのか?」
「そう思うなら降りろ。この先、どう転んだって、地獄だ。最悪、俺一人でいい」
自身に言い聞かせるようでもあり、吐き捨てるようにでもある言葉を放ち、その場から離れようとする。
頭の中に、トキが渡してきた数々の情報が過り、その量に対応が追いついてこない。その苛立ちからか、ホウジュンの心は乱れていた。
「待てよ、ホウジュン」
一人が声をかけ、彼の足は止まる。
軽く駆け寄ると、がしっと片腕でホウジュンの肩を組んだ。
「今更、怯んだりしねぇよ。お前一人に、背負わせるつもりもねぇ」
「……悪い。どうかしてた…」
相手の言葉の意味を汲み取り、ホウジュンの体の力が少し抜けた。張り詰めている空気も、若干だが緩む。
「リスクもあるが、アクシスで飛ぶ。長くはいない。必要なものは自分で揃えてきてくれ。ここで一刻待つ。来なかったら、置いていく」
おう。や、ああ。と言い、集まった仲間が一度散った。
壁に寄りかかったホウジュンは、眉間に皺を寄せながら目を閉じ、再び仲間が集まるのを待つ姿勢だ。
「お前は、準備しないのか?」
動かない彼に、一人が声をかけると、片目だけで相手を見、ああ。と答える
「俺は、これだけあればいい」
腕に絡む重厚な鎖のブレスレット。ホウジュンのレガティマ。
「潔いな」
「本当に…長くいるつもりはない。アクシスで行って…アンカーで戻ってくる…」
本当の最短ルート。しかも、アンカーで戻ってくると言うことは、ほぼノーダメージの予定だと宣言しているようなものだ。
仲間が無意識に、生唾を飲んだ。
それには気づかず、再び目を閉じて、ホウジュンは何か考えているようだった。
「なぁ…ユウヒはどうした?」
「いない」
当然のような問いに、最低限で返す。
それだけで、相手は何か悟ったようだ。
若干の苦笑をこぼす。
「だからお前、なんか変なのか?」
「ん?いや……トキが、ちょっとな…」
「は?」
「あの天才らは、いつもこうなのか?」
曖昧に濁し、そして、最悪だな。とため息をこぼす。
そんな態度に、相手は思わず笑った。
何があったかは知らないが、ホウジュンまでもがおかしくなっているわけではない。そう知れた。
それがなんだか、救いにも感じる。
「ホウジュン!!」
軽く会話をしてると、突然呼ぶ声が響いた。
声の主が想定内だったのか、ホウジュンは軽く息を吐く。
息を荒げながら走ってきたのは、シンだった。
「俺も!連れてけ!」
「駄目だ」
即時に却下される。シンを見ることすらしなかった。ただ、変わらず腕を組み、壁にもたれる。
「なんでだよ!」
「お前はリストに入ってない」
「は?なんだよリストって」
知らんでいい。とホウジュンは冷たくあしらう。
それでも食い下がるシンに、やっと顔を上げると、腕を解き、シンの額を指で弾いた。
「…ッ痛ぇ!」
「聞き分けろ、シン」
2人の温度差に、戻ってきた仲間たちの方が戸惑っていた。
んだよ…と、シンは唇を噛み締め、ダンッ!と地面を踏み鳴らした。
「……俺が弱いからか?だから…!」
「違う」
ホウジュンは即時否定する。
「ならっ!」
引かないシンに、悪い。と断ってから、2人はその場を離れた。
連れられたシンは噛みつこうと息を吸ったが、口から言葉が出ることはなかった。
ホウジュンがまっすぐに、シンを見る。
「お前は強い」
彼から放たれた言葉に、シンは一瞬理解ができず放心した。
ポンと、ホウジュンはシンの頭に手を乗せる。
「今は、メンツが足りない。あっちもこっちも手一杯だ。だから、お前はここで、仲間を守れ」
できるな。
そう、ホウジュンが言う。
それは、信頼の証以外のなにものでもなかった。
シンはそう受け取り、歯を噛み締めた。
「………任せろ!」
「ああ、それでいい」
それでこそ、俺の弟子だ。
ホウジュンは、やっと表情を緩ませた。
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