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静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
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第33話 帰りたいという罠

最低限の義務が、とても重い。

「先を話す。……ホウジュン。聞くか聞かないか、決まったか?」

「ああ。聞かないわけには、いかないようだ」


固まっているソウイチを横目に、ユウヒはホウジュンに訊ね、彼も決意の元頷いた。

聞かない選択肢は残されていないと言われた以上、戦力外になると言われても、聞いたほうが目があるように感じたからだ。

ホウジュンの決意を受け取ったユウヒも一度頷くと、ソウイチに向き直る。

まだおどおどとした様子の彼に、大丈夫だと、ユウヒはゆっくりと言葉をかけた。


「まずひとつだけ。お前は臆病でも弱虫でもない。……むしろ、誰よりも“真っ直ぐに怖がれる人間”だ」

「……は?」


ソウイチは思わず間の抜けた声を出した。


「そっちの方向で褒められるの、俺、人生初なんだけど……」

「面と向かって言わないだけで、誰もが思ってると思うよ。素直で、まっすぐ。純粋だから、表現がストレート」

「ん?え?褒めてる??」


褒められてるのかそうじゃないのかわからなくなってソウイチが混乱しているのを、ユウヒが笑う。

呆れたように、あんまりからかってやるな。とホウジュンに小突かれ、ごめんごめんと、ユウヒは軽く謝った。


「さっきも言ったけど、ソウイチはファルシラと相性がいい。相性というより、核の人間と似てるんじゃないかな?」

「似てる?」

「自分より、他人のことを優先して考えてしまうとか、そういう優しすぎるところ」


利点だけど、欠点でもあるね。とユウヒは困ったように笑った。


「ソウイチが臆病だからこそ、“戻りたい”って気持ちが誰より強い。

そして――それがファルシラの領域の性質と、最悪レベルで相性がいい」

「……相性…」

「ファルシラの核は“嘘”だけど、それに付随して“嘆き”と“寂寞”も秘めていると思う。

 中に入る者の感情、意志、願い……その方向性を読み取って、道を歪めたり、戻したり、弾き出したりする」

「……難しすぎて…ちょっと、わかんないんだけど……」


引きつった作りそこなった笑みのような表情でソウイチは言う。

その手は、彼も無意識のうちに膝の上で固く握りしめられていた。


ユウヒは、お前はどうだ?と言わんばかりにホウジュンに視線を送る。

ホウジュンはため息を吐きつつ、代わりに説明を引き継いだ。


「……俺たちは“倒すため”“辿り着くため”って気持ちが強すぎるから、逆に弾き出される。ってことか?」

「正解」


こくりと頷き、ユウヒは不敵な笑みをホウジュンに向ける。


「それを意識してしまった今、お前は最深部へたどり着けると思うか?」

「無理だろうな」


即答し、戦力外ってそういうことかよ。と、ガシガシと頭を掻いた。

思考が追い付いていないソウイチは、ただおろおろしてるだけだ。

そんな彼に視線を戻し、まっすぐにユウヒは言葉を紡ぐ。


「ソウイチは違う。こうやって聞いたって、“帰りたい”が勝ってる。そうだろう?」


その言葉に、ソウイチの肩がびくっと跳ねる。


「ファルシラは、基本“外へ押し返す”構造だ。俺たちの“進みたい”は逆方向だから、押し返される。

 でもソウイチの“帰りたい”は――押し返す方向と一致する」


ユウヒの言葉に、ソウイチの表情が曇る。


「……え、じゃあ……俺って……」

「ファルシラの“願いの流れ”と、真っ向から噛み合ってるってことだ」


ソウイチは喉を押さえた。


「……じゃあ、俺が長い時間中にいられるのって……別に、俺が強いとか、耐性があるとかじゃなくて……」

「臆病で慎重。そして、常に帰りたいと思いながら、それでも進もうとしてる、その気質のせいだな」


ユウヒの言葉に、ソウイチは目を伏せた。

自分の負の面が、レリクスに“最適化”されている。

そんな皮肉すぎる事実を、すぐには飲み込めなかった。


「問題はそこからだ」


ユウヒはパチンと、指をひとつ鳴らす。

パネルが切り替わり、最初に取り除いたユウヒの記憶映像が浮かび上がった。

そしてそれは、リッカに訊ねていたシーンで動きを止める。

霧の濃い空間。

形にならない影がいくつも揺れている。


「おそらく、この奥に“核”がある。ソウイチ。このまま何も知らずに進めば、確実に核まで辿り着く。そこまでは保証できる」

「……そこまで“は”?」


そう。とユウヒは言葉を区切った。

目を伏せ、言いにくそうに口を引き結んだが、顔を上げないまま、静かに言葉を紡ぐ。


「お前は“囚われる”」


会議室の空気が凍りついたようだった。

ソウイチが小さく呟く。


「……なんで……俺だけ……?」

「理由は一つ。ファルシラにとって“戻りたがる者”は、一番“捕まえやすい”」


ソウイチの瞳が揺れる。


「帰る場所を強く求めるほど、自分のほうに引き込み、そして取り込もうとする」

「……っ……」


ソウイチは上を向き、必死に呼吸を整える。

その肩に、ホウジュンが静かに手を置いた。


「お前が弱いからじゃない。“帰りたい”って思うのは寧ろいいことだ。そこは自信を持て」


ユウヒも同意して頷いた。


「そう。決して悪い感情じゃない。帰還するのは、俺たちの最低限の義務だ」


だからソウイチは好かれるんだと、二人は静かに笑った。


次回更新予定は4/24です。

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