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静かに欠けてゆく世界  作者: オクト
第一章〜嘘〜
33/37

第32話 道筋の違和感

優しすぎるソウイチくんが、書いてて楽しくて切ない。。。

「……ははっ、なにこれ。ドッキリ?」


ソウイチは乾いた声を漏らした。

笑おうとしているはずなのに、頬が強張って動かない。


映し出された三つの映像──

どれも、同じ人物が歩いていた。

歩幅の癖も、呼吸の速さも、肩の揺れ方も。全部。

“自分”だった。


「いや、ちょっと……おいおい……」


喉が震え、言葉の端が途切れる。


「冗談にしては、悪趣味すぎるだろ……」


たまらず振り返ると、ホウジュンとユウヒがいた。

しかし二人とも、笑っていなかった。

むしろ、妙に静かだった。


「……ユウヒ、これ、俺……なんだよ、な?」


ソウイチは縋るように訊ねた。

ユウヒは何も言わなかった。その横顔は、珍しく言葉を慎重に選んでいるように見えた。


「どう見ても、お前だな」


代わりにホウジュンが断言した。

短く、逃げ道のない声音。

ソウイチの肩がびくりと跳ねる。


「で、でも……なんで?俺、そんなに……歩いてたか?」

「知らねぇよ。お前の足だろ」


口は雑なのに、その視線は映像に張り付いたままだ。

ユウヒがようやく口を開く。


「この三つ、全部“ファルシラの領域”に入ってからの記録だ」

「え、でも俺……そんな……長いこといなかったはず……」

「普通なら、長くはいられない」


ユウヒは淡々と言った。

その静けさが、逆に冷たく響く。

ソウイチの呼吸が浅くなる。

恐怖というより、自分でも把握していない“時間”に対する困惑が勝っていた。


「――まず結論から言うと、ソウイチ。お前だけ、異常に長くあそこに“居られてる”」

「……居られ、てる……?」


ソウイチは反射的に復唱した。

ユウヒは、映像を指でなぞりながら続ける。


「普通はすぐ弾かれる。 方向も勝手に捻じ曲げられ、進めてもすぐ外に出される。

でも……お前は、ずっと先に進んでる。しかも、入る度に、長くなる…」

「長く……」

「自覚がないのは、時間感覚を狂わされてるせいだろうな。“短かった”と勝手に思い込まされてる」


ソウイチの顔色がさらに悪くなる。

自分の知らないところで“自分だけが前に進んでいる”。

そんな事実が怖すぎて、思考が追いつかない。


「え、いやいや待って。なんで俺?進む気なんかないし!帰りたいし!!」

「それだよ」


ユウヒの声が、静かにその叫びを切った。

ソウイチが固まる。


「……え?」


その目に映るユウヒの表情は、どこか確信めいていた。

冗談ではない。

これから告げられるのは、“本当に危ない話”だとわかる。

ユウヒは続けた。


「俺の推測でしかない。だけど…」


言葉を続けようとしたユウヒが、それを切って、ホウジュンを見る。

どうした?と目線だけで答えた彼に、いや…と一度言葉を濁らせ躊躇い、少しばかり逡巡してから、ホウジュンに真っ直ぐと視線を向けた。


「この先を聞いてファルシラの戦力外になるか、ノーヒントで挑むか、決めてくれ」


「俺に聞くのか?」


ホウジュンは腕を組み、短く確認する。

ユウヒは黙って頷いた。


ホウジュンはしばし目を閉じ──

考えるようで考えていない表情で、目を開けた。


「その話を聞かないとして、俺はファルシラを攻略できる可能性はあるのか?」

「話さないで進めるなら、俺が話すと思うか?」


即答したユウヒに、ホウジュンは軽くため息を吐いた。そう言うやつだよな、お前…とこぼすことも忘れない。


「ホウジュンが聞いたら、まず間違いなくもう先に進めない。ファルシラがやり方を変えたら別だけど。

ちなみに、ソウイチに話しても、多分変わらない。性格の問題だから」


ソウイチは、喉を鳴らしながら二人を見る。


「……俺……聞いたら……俺でも、追い出される、んじゃ、なく…?」

「変わらない」

「なんで?!!」

「言っただろう?性格の問題だって…」


多分、と言葉を区切り、ユウヒは真っ直ぐにソウイチを見る。2人の視線はかち合うが、ソウイチはすぐに視線を外してしまった。

それだよ。と、ユウヒは苦く笑った。


「その性格で、ソウイチは挑む度に、奥へ奥へと進んでいける。そして……たった1人で、ファルシラの核にたどり着く」


ソウイチの目が揺れる。

ユウヒは、三つの映像を見つめたまま言った。


「そこで――そこでファルシラに囚われ…命を落とすだろうね」


ソウイチの呼吸が止まった。

笑いも、震えも消えた。

ただの“静かな恐怖”だけがその瞳に宿る。

ソウイチの喉が、ごくりと鳴った。


「命を……落とすって……俺……そんな……」


声が震えるたび、映像の自分が頭をよぎる。

自分でも知らない、自分の足跡。“正解を進んでいる、自分”

どういう理屈なのかも、何が起こっているのかも、全く理解できない。


そんなソウイチを見て、ユウヒは頭を掻き、ため息を一つ零した。

その息に、ソウイチはビクッと反応したが、ユウヒは苦笑を零して首を横に振った。


「悪い…脅しすぎた」

「え?いや…」

「だけど……ソウイチはさ、ファルシラと相性が抜群なんだよ」


少しだけ目を伏せて、ユウヒが続ける。


「優しすぎるんだろうな」


ソウイチは、まるで心臓の奥を掴まれたような気がした。


次回更新予定は4/17です。

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