第32話 道筋の違和感
優しすぎるソウイチくんが、書いてて楽しくて切ない。。。
「……ははっ、なにこれ。ドッキリ?」
ソウイチは乾いた声を漏らした。
笑おうとしているはずなのに、頬が強張って動かない。
映し出された三つの映像──
どれも、同じ人物が歩いていた。
歩幅の癖も、呼吸の速さも、肩の揺れ方も。全部。
“自分”だった。
「いや、ちょっと……おいおい……」
喉が震え、言葉の端が途切れる。
「冗談にしては、悪趣味すぎるだろ……」
たまらず振り返ると、ホウジュンとユウヒがいた。
しかし二人とも、笑っていなかった。
むしろ、妙に静かだった。
「……ユウヒ、これ、俺……なんだよ、な?」
ソウイチは縋るように訊ねた。
ユウヒは何も言わなかった。その横顔は、珍しく言葉を慎重に選んでいるように見えた。
「どう見ても、お前だな」
代わりにホウジュンが断言した。
短く、逃げ道のない声音。
ソウイチの肩がびくりと跳ねる。
「で、でも……なんで?俺、そんなに……歩いてたか?」
「知らねぇよ。お前の足だろ」
口は雑なのに、その視線は映像に張り付いたままだ。
ユウヒがようやく口を開く。
「この三つ、全部“ファルシラの領域”に入ってからの記録だ」
「え、でも俺……そんな……長いこといなかったはず……」
「普通なら、長くはいられない」
ユウヒは淡々と言った。
その静けさが、逆に冷たく響く。
ソウイチの呼吸が浅くなる。
恐怖というより、自分でも把握していない“時間”に対する困惑が勝っていた。
「――まず結論から言うと、ソウイチ。お前だけ、異常に長くあそこに“居られてる”」
「……居られ、てる……?」
ソウイチは反射的に復唱した。
ユウヒは、映像を指でなぞりながら続ける。
「普通はすぐ弾かれる。 方向も勝手に捻じ曲げられ、進めてもすぐ外に出される。
でも……お前は、ずっと先に進んでる。しかも、入る度に、長くなる…」
「長く……」
「自覚がないのは、時間感覚を狂わされてるせいだろうな。“短かった”と勝手に思い込まされてる」
ソウイチの顔色がさらに悪くなる。
自分の知らないところで“自分だけが前に進んでいる”。
そんな事実が怖すぎて、思考が追いつかない。
「え、いやいや待って。なんで俺?進む気なんかないし!帰りたいし!!」
「それだよ」
ユウヒの声が、静かにその叫びを切った。
ソウイチが固まる。
「……え?」
その目に映るユウヒの表情は、どこか確信めいていた。
冗談ではない。
これから告げられるのは、“本当に危ない話”だとわかる。
ユウヒは続けた。
「俺の推測でしかない。だけど…」
言葉を続けようとしたユウヒが、それを切って、ホウジュンを見る。
どうした?と目線だけで答えた彼に、いや…と一度言葉を濁らせ躊躇い、少しばかり逡巡してから、ホウジュンに真っ直ぐと視線を向けた。
「この先を聞いてファルシラの戦力外になるか、ノーヒントで挑むか、決めてくれ」
「俺に聞くのか?」
ホウジュンは腕を組み、短く確認する。
ユウヒは黙って頷いた。
ホウジュンはしばし目を閉じ──
考えるようで考えていない表情で、目を開けた。
「その話を聞かないとして、俺はファルシラを攻略できる可能性はあるのか?」
「話さないで進めるなら、俺が話すと思うか?」
即答したユウヒに、ホウジュンは軽くため息を吐いた。そう言うやつだよな、お前…とこぼすことも忘れない。
「ホウジュンが聞いたら、まず間違いなくもう先に進めない。ファルシラがやり方を変えたら別だけど。
ちなみに、ソウイチに話しても、多分変わらない。性格の問題だから」
ソウイチは、喉を鳴らしながら二人を見る。
「……俺……聞いたら……俺でも、追い出される、んじゃ、なく…?」
「変わらない」
「なんで?!!」
「言っただろう?性格の問題だって…」
多分、と言葉を区切り、ユウヒは真っ直ぐにソウイチを見る。2人の視線はかち合うが、ソウイチはすぐに視線を外してしまった。
それだよ。と、ユウヒは苦く笑った。
「その性格で、ソウイチは挑む度に、奥へ奥へと進んでいける。そして……たった1人で、ファルシラの核にたどり着く」
ソウイチの目が揺れる。
ユウヒは、三つの映像を見つめたまま言った。
「そこで――そこでファルシラに囚われ…命を落とすだろうね」
ソウイチの呼吸が止まった。
笑いも、震えも消えた。
ただの“静かな恐怖”だけがその瞳に宿る。
ソウイチの喉が、ごくりと鳴った。
「命を……落とすって……俺……そんな……」
声が震えるたび、映像の自分が頭をよぎる。
自分でも知らない、自分の足跡。“正解を進んでいる、自分”
どういう理屈なのかも、何が起こっているのかも、全く理解できない。
そんなソウイチを見て、ユウヒは頭を掻き、ため息を一つ零した。
その息に、ソウイチはビクッと反応したが、ユウヒは苦笑を零して首を横に振った。
「悪い…脅しすぎた」
「え?いや…」
「だけど……ソウイチはさ、ファルシラと相性が抜群なんだよ」
少しだけ目を伏せて、ユウヒが続ける。
「優しすぎるんだろうな」
ソウイチは、まるで心臓の奥を掴まれたような気がした。
次回更新予定は4/17です。




