第31話 円卓への歩み
本編戻ってきました。
新キャラ登場です~
食堂を出たホウジュンは、廊下の静けさに肩をすくめた。
ユウヒの姿を見とめることはできなかったが、彼は気にすることなく歩みを進めた。
角をいくつか曲がった先、壁に背を預けていたユウヒの姿があった。
彼もこちらに気づいたのか、ゆっくりと背を離し、笑みを浮かべて軽く手を挙げる。
2人が並ぶと、視線を一度合わせただけで、そのまま歩き出す。
「どこに行くんだ?」
「まぁ…先にちょっと歩こう」
当然の疑問だが、ユウヒはぐらかすような口調になった。
ホウジュンは違和感を覚えながらもついていく。
普段使わないような場所を歩いていくので、なんだか新鮮だ。
「で、何を見せたいって?」
「性急だな……まだ、頭の中がまとまりきってないんだよ」
歩きながらユウヒは口元へ指を添え、考え込むような仕草を見せる。
考えをまとめるために歩いているのか。と思いながら、彼をまじまじと見る。
見た目も声も、倒れる前の彼そのもの――そのはずなのに、ホウジュンは説明できない“少しのズレ”を感じていた。
それは気のせいと切り捨てるには、妙に鮮明だった。
しばらく黙って歩く二人。
目的地があるようでない、妙な道順。だが、次第に場所がわかってくると、ホウジュンが眉を寄せた。
この道は…と、そう気づき、ホウジュンの足が止まった。
「……お前、まさか」
「多分、当たり。コンシリウムだよ。多分――いや、もう入れる」
ユウヒの目には確信めいた光が宿っていた。
彼が倒れた原因となった、オーバーテクノロジーが眠る、ルクスしか立ち入れない“あの場所”
本当に大丈夫なのか?という問いを目で投げると、ユウヒは軽く頷くだけで返した。
──その時、前方から人影が近づいてきた。
長身で、どこか落ち着きのない足取り。
ホウジュンはその歩き方を見て、すぐに誰かを察した。
「ん?あー、お前らか。どこ行くんだ?ってか、ユウヒ?!お前もう平気なの?!!」
ソウイチがひらひらと手を振って現れ、そしてユウヒを認めて驚きの声を上げる。
以前コンシリウム内で倒れたユウヒを見つけた張本人だ。
彼はころころと表情が変わり、いつもどこかせわしない感じがする。
「その節はどうも」
ユウヒが軽く頭を下げ、そうだ。と顔を上げてソウイチにニコリと微笑みかけた。
「ちょうどいい。ちょっとさ、付き合ってくれないか?」
「……へ?」
間抜けな声が返るが、まぁいいけど。とすぐ折れるのがソウイチらしい。
「悪いな」
「まぁ、大丈夫。別に予定ないし」
ユウヒの代わりに、軽くホウジュンが謝ると、特に気にした様子も見せずに気さくに返してくる。
こういう気安さがソウイチの特性だ。見ていると、妙にほっとする。
「で、どこに?」
「コンシリウム」
「えっ!?お前、本当にもう倒れないよな!?」
俺、軽いトラウマなんだけど?!と、大げさな反応のソウイチに、ユウヒはのんきに笑い、大丈夫だよ。と答える。
パクパクと口を動かし、何か言いたげなソウイチが視線を泳がせると、ホウジュンが肩をすくめた。
「まぁ、大丈夫だろ。言ったら聞かないから、諦めろ」
「お前……よくこいつとそんなに一緒にいられるよな?」
「ちょっと!それはなんか心外なんだけど?」
年の近い三人の軽口が、久しぶりに響いた。
本当のことだろう?そうかもだけど、なんか釈然としない。などと会話は続き、柔らかい笑いが広がる。
そして気付けば彼らは、コンシリウムの扉前に立っていた。
────
「準備するから、ちょっと待ってて」
宣言通り、ユウヒは何のこともなくコンシリウム内に足を踏み入れた。
内心不安だった2人はホッと肩を撫でおろし、手近な椅子へと腰を下ろす。
テキパキと、あれこれと装置を弄っているユウヒを眺めていると、ソウイチがツンツンと腕を突いた。
「どうした?」
「いや…倒れなくて何よりだけど…俺、必要?」
全然話が見えない…と、ソワソワするソウイチに苦笑しつつ、俺も何も知らんぞ。と軽く返すと、あからさまに驚いた顔になる。
シンとは別方向にわかりやすい奴だ、とホウジュンは微かに笑った。
そんなやりとりをしていると、パッと目の前が明るくなり、光のパネルがいくつか宙に浮かんだ。
起こる行動にイチイチ驚くソウイチを横目に、ホウジュンはパネルに視線を向ける。
映像は全てファルシラの断片だった。ユウヒが手を滑らせるだけで、パネルは整然と並び、円卓を回るように動き出す。
その動きを、ホウジュンはただ黙って目で追った。
淡々としていながら、どこか迷いがない。
倒れる前と変わらないようでいて――何かが違う。
全部まとめてみれるのはいいな。と、ユウヒは感嘆の笑みをこぼした。
「さて…これが、今ここにあるファルシラの情報全てだ。で、これはひとまず除外する」
一つの映像が弾かれる。それは、ユウヒ自身が提出した“例外的”なデータだろう。
ホウジュンは、わずかに眉をひそめる。
データを見比べるのであれば、確かにあれ一つだけ異例ではあるから、取り除くのは納得できた。
今回そこを使わないということは…何かしらの糸口でも掴んだのか?と、話に集中する。
ユウヒは、円卓に光るキーボードのようなものを数回叩く。
すると、映像の下に何やら文字が浮かんだ。
よく見るとそれは、そこに映る人物名と、コロンで区切られた数字だった。
「これは、映像に映ってる人と、その人がレリクスに入ってから出てくるまでの時間を出してる。滞在時間、とでもいうべきかな?」
「結構、似通ってる数字だな…」
「そう。だけど…並び替えると明確に違いが出る」
そう言うと、並んでる画面に向かって、手をしたから上へとスワイプさせた。
パネルは一度散ると、横に並んでいたものが縦に整列し始めた。
「上から、滞在時間が長い順。確かに、下の方は似たり寄ったりで、ほとんど差はない。だけど…」
こうすると、面白いよ。と、ユウヒはニコりとソウイチに向かって笑みを浮かべ、円卓をコンコンコンと、3回叩いた。
すると、パネルは音もなく消失していき、目の前に3つだけ残された。
小さく表示されていたそれは、数が減ったことにより大きくなり、鮮明に人物が浮かび上がる。
「は?え?……俺?」
ソウイチが間の抜けた声を上げた。
そこに残った三つの映像。
拡大されたそれには、どれもソウイチの姿だけが映っていた。
次回更新予定は4/10です。




